サヴォイア十字軍

サヴォイア十字軍：中世の東欧における遠征の光と影

サヴォイア十字軍は、1366年から1367年にかけてサヴォイア伯アメデーオ6世が主導した、東欧におけるオスマン帝国に対する軍事遠征です。当初はローマ教皇ウルバヌス5世の提唱のもと、ハンガリー王国や東ローマ帝国との連携を目指しましたが、実際にはブルガリア帝国への攻撃が中心となり、その成果は限定的なものにとどまりました。

十字軍の背景と準備

1363年、フランス王ジャン2世とキプロス王ピエール1世が聖地への十字軍を誓い、教皇から十字の印を授与されました。これがサヴォイア十字軍の始まりとされていますが、ジャン2世は誓いを実行せず、ピエール1世もサヴォイア伯の遠征には参加しませんでした。教皇はハンガリー王ラヨシュ1世にもオスマン帝国に対する十字軍を訴え、ラヨシュ1世は軍備を整えましたが、ブルガリア北部に侵攻し、ヴィディンを占領するにとどまりました。

財政面では、教皇ウルバヌス5世がアメデーオ6世の遠征のために様々な収入源を確保しました。不正な手段で得られた収益は没収され、十字軍の費用に充てられました。また、サヴォイア伯国とその属国における遺産、贈り物、没収品なども遠征のために割り当てられました。

軍隊と艦隊

1366年初頭、アメデーオ6世はサヴォイアで自軍を召集しました。軍の多くはサヴォイア家に仕える封臣で、アメデーオ6世の異母兄弟や庶子も参加しました。イングランドの騎士リチャード・ミュサルドや、アメデーオ6世の従兄弟ギヨーム・ド・グランソンなども名を連ねました。十字軍はヴェネツィアに到着後、3つの軍団に組織化され、それぞれ異なる指揮官が率いました。

ヴェネツィア共和国は、アレクサンドリア十字軍がイスラム諸国との商業関係に悪影響を与えることを懸念し、十字軍への参加や物資の供給に消極的な姿勢を示しました。しかし、アメデーオ6世の使者は、ヴェネツィアから2隻のガレー船の提供を取り付けました。教皇ウルバヌス5世はジェノヴァやマルセイユとも交渉し、船を確保しようとしましたが、神聖ローマ皇帝カール4世からの物資輸送の約束は履行されませんでした。

東方への移動と遠征

1366年1月、アメデーオ6世は妻に摂政を命じ、ヴェネツィアに向けて出発しました。道中、ミラノの僭主ガレアッツォ2世・ヴィスコンティの支援を受け、資金や兵力を提供されました。十字軍はヴェネツィアからダルマチア沿岸部を経由してコロニに到着し、そこでアカイア公国の所有権を巡る争いに巻き込まれました。アメデーオ6世は仲裁に入り、紛争を解決した後、ガリポリへ向かいました。

十字軍は東ローマ皇帝ヨハネス5世パレオロゴスの支援を目的としていましたが、教皇はヨハネス5世をカトリックに改宗させることを望んでいました。十字軍はダーダネルス海峡に到着し、ヨハネス5世の義理の息子が率いる小艦隊と合流しました。1366年8月、十字軍はオスマン帝国のヨーロッパにおける拠点の一つであるガリポリを攻撃し、占領しました。この勝利は西欧世界に伝えられましたが、同時に多くの戦死者が出ました。

その後、アメデーオ6世はブルガリアへ向かい、黒海沿岸の都市を次々と占領しました。ネセバルでは激しい抵抗に遭い、多くの犠牲者が出ました。十字軍はヴァルナを包囲しましたが、市民は抵抗し、ヨハネス5世の釈放を求める使者を派遣しました。アメデーオ6世はブルガリアとの交渉を続け、最終的にヨハネス5世の釈放に成功しました。

帰国とその後

1367年4月、アメデーオ6世はコンスタンティノープルへ帰還し、ヨハネス5世から遠征費用の一部を受け取りました。アメデーオ6世はオスマン帝国に対する戦闘を続けようとしましたが、ガリポリを占領したことでその意義は低下していました。5月にはマルモア海沿岸のオスマン領を占領しましたが、主な関心は帰りの航海のために資金を集めることでした。

アメデーオ6世はコンスタンティノープルで東西教会の分裂解決を交渉しましたが、成果は得られませんでした。6月、アメデーオ6世はガリポリを東ローマ帝国に譲渡し、イタリアへ帰国しました。ヴェネツィア、ローマを経て、シャンベリに帰還したアメデーオ6世は、十字軍の勝利者として迎えられました。

しかし、アメデーオ6世が残したエモナはブルガリア人に奪われ、ガリポリも1376年にオスマン帝国に奪還されました。サヴォイア十字軍は、一時的な成功を収めたものの、長期的な影響は限定的なものでした。

歴史的評価

歴史家のニコラエ・ヨルガは、サヴォイア十字軍を「十字軍と同類のものではなくて突飛な行動に近い」と評しています。一方、オスカル・ハレスキイは、十字軍によるガリポリ占領を「キリスト教徒によるヨーロッパを守るための闘争において最初に達成された成功であり、14世紀全体を通してトルコに対する最後の偉大な勝利である」と評価しています。

サヴォイア十字軍は、中世における十字軍運動の終焉期における一例として、その意義と限界を考察する上で重要な事例と言えるでしょう。

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