ヨハネス5世パレオロゴス

ヨハネス5世パレオロゴス（1332年6月18日 - 1391年2月16日）は、東ローマ帝国パレオロゴス朝の第7代皇帝です。アンドロニコス3世の長男として生まれ、9歳で即位しました。しかし、幼少のため、実権は皇太后アンナとコンスタンティノポリス総主教ヨハネス14世カレカスが握り、摂政政府を樹立しました。

摂政政府は、父の重臣ヨハネス・カンタクゼノスと対立し、5年以上にわたる内乱に突入します。1347年、カンタクゼノスが勝利し、彼は娘ヘレネーをヨハネス5世と結婚させた上で、皇帝ヨハネス6世カンタクゼノスとして実権を掌握します。ヨハネス5世はテッサロニキの行政職に留められ、首都の政局から遠ざけられました。しかし、反カンタクゼノス派の有力者や市民が彼のもとに集まり、対立は深まります。

1352年、ヨハネス5世はセルビア王ステファン・ウロシュ4世ドゥシャンと同盟を結び、ヨハネス6世に宣戦しますが、オスマン君主オルハンの支援を受けたヨハネス6世に敗北し、亡命を余儀なくされます。その後、レスボス島のジェノヴァ人領主の支援で帰国し、1354年末にヨハネス6世を隠退させ、支配権を回復します。しかし、この内乱期に、帝国はマケドニア地方の大半、エピロス、テッサリアなど、バルカン半島西部の主要な領土をセルビアに奪われ、領土を大きく失いました。また、義父ヨハネス6世を支援していたトルコ人がバルカンに定着し始め、1360年代にはアドリアノープルをはじめとする首都周辺地を支配下に置きました。

ヨハネス5世には、これらの問題を解決する能力も手段も残されていませんでした。彼は西欧勢力との同盟に解決を求め、外交活動を開始しますが、実質的な成果は得られませんでした。1370年には、同盟交渉のために赴いたヴェネツィアで負債返済に関する件で拘束されるという事態に陥ります。

さらに、ヨハネス5世は身内にも問題を抱えていました。長男のアンドロニコス4世は共同皇帝に指名されていましたが、父を排除して自らが支配権を掌握しようと画策します。1373年の反乱は失敗に終わりますが、1376年のクーデターは成功し、ヨハネス5世は次男マヌエル2世と共に廃位・投獄されました。しかし、皮肉にも彼の復位を助けたのは宿敵オスマン帝国でした。スルタン・ムラト1世は彼の復位を援助する代わりに、属国となることを要求します。1381年、ヨハネス5世はやむなくムラト1世に臣従し、東ローマ帝国はオスマン帝国の属国となりました。

その後も、アンドロニコスはオスマン帝国の実質的な保護下に勢力を維持し、1385年に彼が崩御した後も、その息子ヨハネス7世が簒奪の機会を窺っていました。1390年、ヨハネス7世はクーデターに成功し、祖父を廃位させますが、マヌエル2世の救援とオスマン帝国の支援により反撃に成功し、復位を果たします。以後はマヌエル2世との共同統治体制となりました。しかし、オスマン帝国は再び「救援の代償」を求め、バヤズィト1世は、小アジア都市フィラデルフィアの割譲、コンスタンティノポリスにおけるカーディーの設置、コンスタンティノポリス城壁付属の要塞取り壊しなど、過酷な要求を突きつけます。ヨハネスはこれを呑まざるを得ず、心労が重なって1391年に崩御しました。

ヨハネス5世の治世と人物評価は高くありません。彼の治世は帝国の縮小と凋落に重なっており、状況において主導権を握れず、有効な手段を講じることができなかったことが、評価を下げています。晩年は無気力になり、現実の問題から背を向けがちであったという記録もあります。帝位争いの苦境にあって彼を助け、最終的に帝位を継承した次男マヌエル2世との関係も良好ではありませんでした。ヨハネスは、政治力学上の問題からアンドロニコス4世に譲歩し、マヌエルに冷遇ともいえる扱いをせざるを得なかったため、父子の間には葛藤がありました。

ヨハネス5世は、妻ヘレネー・カンタクゼネ（ヨハネス6世カンタクゼノスの皇女）との間に、長男アンドロニコス4世、長女エイレーネー、次男マヌエル2世、三男ミカエル、四男テオドロス1世をもうけました。このうち、三男ミカエルは記録が少なく、政治的な役割はあまり大きくなかったと思われます。四男テオドロスは息子の中では唯一一貫して父に忠実で、1382年にペロポネソス半島に派遣され、統治にあたりました。また、非嫡出の子供も数人いたと言われています。

ヨハネス5世の治世は、東ローマ帝国の衰退を象徴するものであり、彼の無力さが際立つ時代でした。しかし、その後の帝国の歴史を考える上で、重要な転換期であったと言えるでしょう。

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