サーブ 29 トゥンナン

サーブ 29 トゥンナン：スウェーデンの空を彩った革新的ジェット戦闘機

サーブ 29 トゥンナン（SAAB 29 Tunnan）は、スウェーデンの航空機メーカーであるサーブが開発した後退翼を備えたジェット戦闘機です。その丸みを帯びた胴体から、スウェーデン語で「樽」を意味する「トゥンナン」という愛称で親しまれました。

開発の背景と概要

1948年9月1日に初飛行を成功させたサーブ 29は、同時期に登場したMiG-15（ソ連）、F-86（アメリカ）、プルキー II（アルゼンチン）など、後退翼を採用した革新的なジェット戦闘機の一つとして、航空史に名を刻みました。当時、後退翼は高速性能と安定性を両立させるための最先端技術であり、各国が競って研究・開発を進めていました。

サーブ 29は、その多用途性も大きな特徴です。機首に機関砲を搭載した戦闘機型（J 29）に加え、偵察任務に特化した写真偵察機型（S 29）、地上攻撃能力を強化した攻撃機型（A 29）が開発されました。これは、限られた資源の中で多様な任務をこなす必要があったスウェーデンの航空戦略を反映したものであり、後のサーブ 39 グリペンといったマルチロール機開発の礎となりました。

優れた性能と国際的な活躍

サーブ 29は、その優れた機体性能を実証するため、1954年には500km区間での速度記録977.35km/hを樹立しました。総生産数は665機に達し、1965年まで第一線で活躍しました。

輸出面では、MiG-15、F-86、ハンターといった強力なライバルが存在したため、大きな成功を収めることはできませんでした。しかし、オーストリアは1961年にJ29AとS29Cを30機導入し、1972年まで運用しました。その後、同じくサーブ製のJ 35Öを導入し、2005年にF-5Eに更新するまで運用を続けました。

コンゴ動乱での実戦参加

サーブ 29が実戦に参加したのは、コンゴ動乱が唯一の機会でした。1961年9月24日、国際連合からの要請を受けて派遣が決定され、同年9月28日には5機のJ29Bからなる第22飛行隊が編成され、コンゴへ出発しました。

第22飛行隊は、レオポルドビル（現キンシャサ）に到着後、カミナ基地に展開し、国連の航空輸送を護衛する作戦に従事しました。1962年には、J29B 4機とS29C 2機が追加派遣され、コンゴ国連軍の航空戦闘部隊の中核を担いました。

特に、1962年12月から実施されたカタンガ軍のコルウェジ基地への対地攻撃任務では、その活躍が際立ちました。最初の6日間で150時間にも及ぶ作戦行動を行い、参加した9機のJ29Bのうち8機が地上砲火による損害を受けながらも任務を完遂しました。また、2機のS29Cは、暗色系の迷彩を施して写真偵察を行い、熱帯雨林の悪天候下においても地上目標の偵察・撮影を行い、地上攻撃の効果を大きく高めました。

コンゴ動乱でのJ29の活躍は、スウェーデン空軍兵士の練度の高さを示すとともに、J29の優れた多目的能力を世界に知らしめることとなりました。しかし、損害も大きく、派遣された11機のうち無事に帰還できたのはわずか4機でした。

各型

J29A: 初期生産型
J29B: 攻撃機型
J29D: アフターバーナー装備試験機
J29E: 後期生産型
J29F: アフターバーナー装備型
S29C: 写真偵察機型

主要諸元

武装: 20mm機関砲 x 4、Rb 24 (AIM-9B) サイドワインダー x 2、145mm対戦車ロケット弾、150mmロケット榴弾、180mm対艦ロケット弾

採用国

スウェーデン
* オーストリア

サーブ 29 トゥンナンは、スウェーデンの航空技術の粋を集めた、革新的で多用途なジェット戦闘機でした。その愛らしい愛称とともに、航空史にその名を残しています。

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