サーマッラー

サーマッラー：古代メソポタミアから世界遺産へ

サーマッラー（سامراء Sāmarrāʾ）は、イラクのサラーフッディーン県に位置する都市であり、チグリス川沿いに発展した古代メソポタミア文明以来の長い歴史を持つ。

歴史

古代

サーマッラーは古代から重要な拠点であり、4世紀にはローマ皇帝ユリアヌスがこの地で没したという記録が残っている。

アッバース朝の首都

836年、アッバース朝のカリフ、ムウタスィムは、軍内部の対立を背景に首都をバグダードからサーマッラーへ遷都した。その後、約50年間サーマッラーはアッバース朝の中心地として繁栄を極め、イスラム世界最大級のモスクであるサーマッラーの大モスクが建設された。しかし、主要な交易ルートから外れていたため、バグダードを超えるほどの都市機能を持つには至らなかった。

近代

20世紀に入ると、サーマッラーの遺跡発掘調査が本格的に始まった。1911年には、ドイツの考古学者エルンスト・ヘルツフェルト率いる調査団が発掘を実施。1965年には、イラク考古局によって大モスク、アッバース宮殿、アル＝アーシク宮殿などの修復が行われた。
チグリス川の治水ダム建設により、洪水が減少すると人口が増加し、現在では約20万人の人々が暮らしている。住民の多数はスンナ派であるが、シーア派の聖地でもあり、両派間の緊張が懸念される状況にある。

特産品

サーマッラーは、ラグビーボールのような形をした大きなスイカの産地として知られている。

世界遺産

2007年、「都市遺跡サーマッラー」としてユネスコの世界遺産に登録された。しかし、イラクの政情不安から、登録と同時に「危機にさらされている世界遺産」リストにも加えられている。

主な建造物

大モスクと螺旋ミナレット
849年～852年に建設された大モスクは、当時イスラム世界で最大規模を誇った。特徴的なのは、螺旋状にそびえ立つミナレット（マルウィヤ・ミナレット）で、そのユニークな形状は訪れる人々を魅了する。
アブ・ドゥラフ・モスク
大モスクに似た構造を持つが、規模は小さい。柱廊玄関で囲まれた中庭が特徴的。
カリフ宮殿
カリフ、アル・ムータシィム・ビラーによって建設された広大な宮殿。居住区、ホール、施政室など、様々な施設を含み、初期の配置がほぼ完全に残っている。

その他、アル・フワイシラ宮殿、バルクワラ宮殿、アル・マシュク宮殿など、数多くの宮殿や建造物が存在する。

登録基準

サーマッラーは、以下の世界遺産登録基準を満たしている。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

サーマッラーは、その歴史的・文化的価値の高さから、世界中の人々から注目を集めている。しかし、紛争やテロによる破壊の危機に晒されており、国際的な協力による保護が求められている。

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