サーマルリサイクル

サーマルリサイクル（熱回収）とは

サーマルリサイクルとは、廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを回収し、有効利用する技術のことです。日本では「エネルギー回収」とも呼ばれ、廃棄物の単なる焼却処分ではなく、資源の有効活用という観点から重要な役割を担っています。

日本におけるサーマルリサイクルの現状

日本では、廃棄物の焼却時に発生する熱を回収し、発電や周辺施設の暖房、温水供給などに利用しています。これは、容器包装リサイクル法でも認められており、ガス化・油化、焼却熱利用、廃棄物発電、セメントキルン原燃料化、廃棄物固形燃料など、様々な形での利用が進められています。

特に、プラスチックのリサイクルにおいては、マテリアルリサイクル（再製品化）やケミカルリサイクル（原料・モノマー化）と並んで、サーマルリサイクルが重要な位置を占めています。ただし、廃棄物のガス化・油化はケミカルリサイクルに分類されますが、燃料として利用する場合はサーマルリサイクルとして扱われます。

サーマルリサイクルは、発電時や焼却時に発生する熱を給湯や暖房に利用する点で、コージェネレーションシステムと類似しています。発電時のエネルギー効率を高め、一次エネルギーの削減やCO2排出量の抑制にも貢献しています。しかし、日本の現状では、発電設備を備えたごみ焼却施設は全体の34％にとどまり、発電効率20％以上の施設はごくわずかです。今後、発電効率の向上が課題となっています。

サーマルリサイクルと循環型社会

循環型社会形成推進基本法では、廃棄物対策の優先順位として、リデュース、リユース、マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル、そしてサーマルリサイクルの順に位置づけられています。しかし、経済財政諮問会議の専門調査会では、サーマルリサイクルも有効なエネルギー回収手段として、マテリアルリサイクルと同等の重要性を持つと提言されています。

EUにおけるサーマルリサイクルの位置づけ

EUでは、「リサイクル」という言葉は、主にマテリアルリサイクル（再製品化）を指します。熱エネルギーとして利用する場合は「エネルギーリカバリー」という概念が用いられ、リサイクルとは区別されています。そして、マテリアルリサイクルやエネルギーリカバリーなどを包括する概念として「リカバリー」が用いられています。

プラスチックのリサイクルにおける課題

プラスチックは、PE、PS、PP、PVCなど、様々な種類の樹脂で構成されており、分別が難しいという問題があります。また、製品には複数の種類のプラスチックが混ざっている場合が多く、消費者による分別も困難です。そのため、廃プラスチックは、埋め立てられるか、サーマルリサイクルされるかのいずれかの選択肢に限られるのが現状です。過去には、PVCがダイオキシンの原因とされていましたが、分別方法や燃焼技術の確立により、サーマルリサイクルへの移行が進んでいます。

熱エネルギーとしての価値

プラスチックは、石油製品であり、石油や石炭と同等の発熱量を持っています。そのため、サーマルリサイクルによって大量の熱エネルギーを回収でき、火力発電で使用される原油の削減に貢献できます。

ただし、発電に必要な燃料の量や、燃焼時の二酸化炭素排出量には、燃料の種類によって差があります。天然ガスと比較すると、プラスチックはより多くの燃料が必要で、二酸化炭素排出量も多くなります。

埋め立て処分との比較

地球温暖化の観点から、二酸化炭素を排出するサーマルリサイクルよりも埋め立てる方が環境に良いという意見もありますが、サーマルリサイクルによって削減できる原油の二酸化炭素排出量を考慮すると、ある程度相殺できると考えられます。

ライフサイクルアセスメント（LCA）

サーマルリサイクルは、リサイクルの最終手段として位置づけられますが、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルと比較検討する際には、ライフサイクルアセスメント（LCA）が重要になります。リサイクルには、輸送や再資源化の工程でエネルギー投入が必要であり、CO2排出などの環境負荷も発生します。そのため、リサイクルによって得られる資源価値と、それに伴う環境負荷を比較して、最適な処理方法を選択する必要があります。

例えば、ペットボトルの場合、マテリアルリサイクルで再生ボトルを作る際の資源投入量が、新品のペットボトルを作るよりも少ない場合は、マテリアルリサイクルが推奨されます。アルミ製品のように、マテリアルリサイクルの効率が高い場合は、積極的に推進されています。しかし、マテリアルリサイクルの効率が悪い場合は、サーマルリサイクルの方が効率的であると考えられます。

サーマルリサイクルの評価

廃棄物の中には、再資源化が困難なものや、選別が煩雑でコストがかかるものも存在します。廃棄物からのエネルギー回収は、焼却熱を利用するため、単に焼却するよりも有効な手段と考えられています。しかし、リサイクル可能な資源まで焼却してしまうという問題点も指摘されています。そのため、リユースやマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルが困難な廃棄物に対してのみ、サーマルリサイクルを行うのが理想です。また、発電効率の低い施設での焼却は、エネルギー回収とはみなされない場合があります。

海外では、廃棄物焼却を「廃棄物からのエネルギー回収」と捉え、リサイクルとは区別しています。また、温暖化ガス排出につながるとして、批判的な意見もあります。プラスチックを例にとると、プラスチック1kgの焼却で約2.9kgのCO2が排出されると見積もられており、これは無視できない量です。日本の2018年のプラスチック焼却量から計算すると、国民一人当たり年間約156kgのCO2を排出していることになります。

まとめ

サーマルリサイクルは、廃棄物からエネルギーを回収する有効な手段ですが、環境負荷や効率性の課題も存在します。今後、より効率的なエネルギー回収技術の開発や、リサイクル率の向上を目指していく必要があります。

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