ザクセン戦争 (ハインリヒ4世)

ザクセン戦争：神聖ローマ帝国の内乱

ザクセン戦争は、1073年に勃発した神聖ローマ帝国の皇帝ハインリヒ4世に対するザクセン貴族の反乱です。この戦争は、ザーリアー朝に対するザクセン貴族の不満、叙任権闘争、そして皇帝の権力強化政策が複雑に絡み合って発生しました。

背景

ザクセンと皇帝の関係は、ハインリヒ4世の父であるハインリヒ3世の時代から緊張の兆しを見せていました。ハインリヒ3世は、フランケン地方を拠点に勢力を拡大し、ボヘミアやハンガリーを臣従させました。彼はまた、教会の改革運動を支持し、ローマ教皇庁の改革にも積極的に関与しました。しかし、ザクセンに対しては、ブレーメン大司教にゴーゼック伯アーダルベルトを任命し、ビルング家の権力を抑制しようとしました。さらに、ゴスラー周辺のハルツ地方に王室直轄地を増やし、城塞を築いて皇帝の権威を示そうとしました。これらの政策は、ザクセンの人々にとって経済的な負担となり、不満を高めました。

ハインリヒ3世の死後、幼いハインリヒ4世が皇帝を継承しましたが、摂政政治が行われ、帝国の政治は不安定になりました。ハインリヒ4世は親政を開始すると、王室財産の回復や国王直轄地の創設に努め、権力基盤を強化しようとしました。特に、ハルツ地方の城塞建設は、ザクセンの人々にとって脅威となり、両者の対立は深まりました。

戦争の勃発と展開

1073年6月、ザクセン貴族はゴスラーの皇帝居城で処遇改善を求めましたが、ハインリヒ4世はこれを拒否しました。ザクセン軍が城を取り囲む中、皇帝はハルツ城に逃げ込みました。ザクセン軍を率いたのは、かつてのバイエルン大公オットー・フォン・ノルトハイムとハルバーシュタット司教バーチャード2世でした。ハインリヒ4世は包囲を脱出し、南ドイツへ向かおうとしましたが、支持勢力を見つけることができず、苦境に立たされました。

1074年2月、ゲルシュトゥンゲンにおいて和平交渉が行われ、ハインリヒ4世はハルツ城の一部破却に合意しました。しかし、ハルツ城の破却は、教会や王室の墓を冒涜する行為とみなされ、多くの諸侯がハインリヒ4世から離反するきっかけとなりました。1075年6月、ウンシュトゥルトのホムブルクの戦いで、ハインリヒ4世はザクセン軍を破り、ザクセンの指導者たちは降伏を余儀なくされました。ハインリヒ4世はザクセン反乱を鎮圧し、国王権力の拡大に成功しました。

叙任権闘争との関係

ザクセン戦争は、叙任権闘争と深く結びついていました。ザクセン貴族と南ドイツ諸侯は連絡を取り合い、ローマ教皇庁も彼らを支援しました。ローマ教皇グレゴリウス7世は、皇帝顧問の司教を破門し、ハインリヒ4世に教皇に従うよう求めました。ハインリヒ4世は教皇の廃位を決議しましたが、教皇は逆にハインリヒ4世を破門しました。これにより、ハインリヒ4世の権威は失墜し、国内の反皇帝勢力が勢いを増しました。

1077年1月、ハインリヒ4世はカノッサに赴き、教皇に謝罪して破門を解いてもらいました（カノッサの屈辱）。これにより、ハインリヒ4世は戦力を回復し、ドイツの平定に乗り出しました。しかし、1080年にグレゴリウス7世は再びハインリヒ4世を破門し、両者の対立は激化しました。ハインリヒ4世はイタリアに侵攻し、対立教皇を擁立して戴冠式を行いました。グレゴリウス7世は失意のうちに没し、ドイツでは対立王が次々と現れましたが、最終的にハインリヒ4世によって統一されました。

その後

ハインリヒ4世の息子ハインリヒ5世も、ザクセンと戦わなければなりませんでした。1106年、ハインリヒ4世とザクセン大公マグヌスが相次いで死去し、ビルング家は断絶しました。ハインリヒ5世はズップリンブルク家のロタールをザクセン公に任命しましたが、後にロタールと対立し、ザクセンの自立が進みました。1122年、ヴォルムス協約によって叙任権闘争は一応の決着をみましたが、ハインリヒ5世は後継者のいないまま死去し、ザーリアー朝は終焉を迎えました。その後、ザクセン大公ロタール（ロタール3世）が皇帝となりました。

ザクセン戦争は、神聖ローマ帝国の政治的・社会的な構造に大きな影響を与えた内乱でした。皇帝と諸侯の対立、教皇との叙任権闘争が複雑に絡み合い、帝国の権力構造を大きく揺るがしました。

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