ザスタバ

ザスタバ：セルビアの工業コングロマリット

ザスタバ（セルビア語: Застава, Zastava）は、セルビアのクラグイェヴァツに拠点を置く歴史ある工業コングロマリットです。1853年創業の大砲鋳造工場を起源とし、第二次世界大戦後は「ザヴォディ・ツァルヴェナ・ザスタヴァ」と名を変え、大きく発展を遂げました。

特に、イタリアのフィアット社の自動車をライセンス生産したことで広く知られています。日本では「ツァスタヴァ」と呼ばれることもありますが、セルビア語の発音は「ザスタヴァ」に近いと言われています。

自動車部門：フィアットとの深い繋がり

ザスタバは、乗用車とトラックの製造を主要事業としてきました。1950～80年代にかけては、フィアット1300、1400、1900といったモデルの派生車を生産開始。その後も、フィアット600をベースにしたザスタバ750、フィアット128をベースにしたザスタバ・スケーラ、フィアット127をベースにしたザスタバ・コラルといった車種を製造し、西側諸国でも広く知られる存在となりました。

特に、1970年代にはスケーラ、1980年代にはコラルを「ユーゴ」ブランドで西欧や南米に輸出。アメリカ合衆国とカナダではブリックリン社が輸入代理店となり、コラルを「ユーゴGV」として販売しました。3,990ドルという低価格が魅力でしたが、品質問題が表面化し、販売は短期間で終了しました。

しかし、1990年代以降はユーゴスラビア紛争、コソボ紛争の影響を大きく受けます。工場の空爆や労働者の流出により自動車生産は中断。西側市場からの撤退を余儀なくされ、経営は深刻な危機に陥りました。紛争の影響で新車開発はほとんど行われず、既存モデルのマイナーチェンジにとどまりました。

2000年代に入ると、フィアットとの提携を進展。2008年にはフィアットがザスタバの自動車部門の70％の権益を取得し、新たな協定を締結。フィアット・プントの後期型を「ザスタバ10」として生産する計画が発表されました。しかし、ザスタバ・スケーラ、ザスタバ・コラル、ザスタバ・フロリダの生産は2008年11月に終了。約半世紀続いたザスタバブランドの自動車は歴史の幕を閉じました。

2009年以降は、フィアット傘下で東欧・ロシア向けのフィアットブランド生産拠点として再編。ザスタバ10は「フィアット・プント・クラシック」と改名され生産が継続されています。

兵器部門：セルビア軍への供給

ザスタバは、自動車部門に加え、兵器製造部門も有しています。子会社のザスタバ・アームズ（Застава Оружје、Zastava Oružje）は、セルビア軍と民間に対し、軍用およびスポーツ用の小火器を製造するセルビア唯一の企業です。

ザスタバの歴史的意義

ザスタバは、冷戦時代の東側諸国の自動車産業を代表する存在でした。フィアットとの技術提携による発展、ユーゴスラビア紛争による衰退、そしてフィアットとの再編と、その歴史は激動の時代を反映しています。その興亡は、東欧経済の変遷や地政学的変化を理解する上で貴重な事例と言えるでしょう。また、現在もセルビアの防衛産業を支える重要な企業として存在感を示しています。

もう一度検索