ザビン・タンブレア

ザビン・タンブレア（Sabin Tambrea）は、1984年11月18日にルーマニアのトゥルグ・ムレシュに生まれ、ドイツを拠点に活動する俳優です。

音楽家である両親のもと、豊かな音楽的環境で育ちました。ルーマニアがニコラエ・チャウシェスクの独裁政権下にあった頃、一家はドイツのノルトライン＝ヴェストファーレン州ハーゲンへと移住します。幼い頃から音楽に深い関心を示し、4歳でヴァイオリンを始めたのを皮切りに、ピアノ、ヴィオラ、そして指揮についても学びました。ヴァイオリンの演奏家としては、「ユーゲント・ムジツィールト（Jugend musiziert）」全国青少年音楽コンクールを含む多くのコンテストで賞を獲得し、ノルトライン＝ヴェストファーレン州立青少年オーケストラのメンバーとしても活躍しました。また、1996年にはハーゲン市立劇場において、児童合唱団のソリストとしてプロの舞台デビューを果たし、表現者としてのキャリアの第一歩を踏み出しました。

少年時代には、ハーゲン市立劇場のユース劇団「ルッツ」に参加し、演劇への関心を深めていきました。2004年には舞台作品『ネリエ・グッバイ』の初演キャストの一員となります。さらに本格的に演劇を学ぶため、2006年にベルリンのエルンスト・ブッシュ演劇大学に入学。在学中の4年間で、ベルリーナ・アンサンブルと契約を結ぶなど、その才能は早期から認められていました。これまでに、著名な演出家ロバート・ウィルソンによる『シェイクスピアのソネット』、『ルル』、『ピーター・パン』といった作品に加え、『十二夜』、『ハイルブロンのケートヒェン』、『春のめざめ』など、古典から現代劇まで幅広いジャンルの舞台に立っています。

映画の世界では、2012年公開の『ルートヴィヒ』で重要な役を掴み、俳優としての地位を確立しました。この作品では、第4代バイエルン国王ルートヴィヒ2世を演じることになります。身長が190センチ以上あり、かつ30歳未満であること、フランス語を話せること、乗馬が得意であることという、極めて限定的な条件のもと、370名に及ぶ候補者の中からこの主役に抜擢されました。難役であるルートヴィヒ2世を見事に演じきったその演技は高く評価され、バヴァリアン映画賞の新人男優賞とドイツ新人賞を受賞。さらに、ドイツ映画賞の主演男優賞にもノミネートされるなど、その実力は広く認められました。

彼の人物像を物語る興味深いエピソードがいくつかあります。幼少期には、舞台に上がる直前に極度の緊張から気を失ってしまうことがしばしばあったそうです。この症状を克服するために、母親の勧めによって少年合唱団に入団した経験があります。また、音楽は彼の日常生活において非常に重要な要素であり、自宅では常に何らかの音楽を流しているといいます。寝室にもサウンドシステムを設置しており、就寝中や睡眠時も音楽を聴いているほどです。さらに、自身の内面について、夢や目標が実現した瞬間を人生で最も悲しい時だと語る独特の考え方を持っています。これは、達成によって生じるモチベーションの喪失を意味するのかもしれません。『ルートヴィヒ』への主演が決まった際にも、喜びよりもむしろ悲嘆に暮れたというのは、彼のこの哲学を象徴するエピソードと言えるでしょう。

ザビン・タンブレアは、幼い頃からの音楽教育で培われた繊細さと、演劇大学で磨かれた確かな表現力を兼ね備えた俳優です。特に歴史上の人物を演じる際にその真価を発揮し、ドイツ国内外で高い評価を得ています。多才なバックグラウンドとユニークな感性を持つ彼は、今後も映画、舞台を問わず、幅広い活躍が期待されています。

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