ザミュエル・フォン・プーフェンドルフ

ザムエル・フォン・プーフェンドルフの生涯と業績

ザムエル・フォン・プーフェンドルフ（Samuel von Pufendorf、1632年1月8日 - 1694年10月13日）は、ドイツ出身の著名な法学者であり、近代の法思想に多大な影響を及ぼしました。彼はザクセン州のドルフケムニッツに生まれ、牧師の家庭に育ちました。若い頃から学問に励み、イェーナ大学で法学、文献学、歴史学を学んだ後、1661年にはハイデルベルク大学で国際法の教授に任命されました。1668年以降はスウェーデンのルンド大学で教鞭をとり、その活動は法学の発展に寄与しました。

プーフェンドルフの時代、特にウェストファリア条約後のヨーロッパでは、各ラントの諸侯権が確立され、ローマ法の権威が揺らいでいました。そこで、新たに求められたのは普遍的な「理性法」でした。この社会的変化に対し、プーフェンドルフは世俗的自然法論を展開しました。彼はトマス・ホッブズと同様に「自己保存本能」を論じつつ、人間の無力さから他者の助力が不可欠であると論じ、「自然状態」を家族の結合のような社会的関係として描きました。したがって、彼は完全な闘争状態を否定し、「自然状態」という概念を新たに解釈しました。

プーフェンドルフはまた、この自然状態が宗教的な内面的良心だけで維持されるのでは不安定であると考え、社会契約に基づいて国家を形成し、その権力が平和と安全、ひいては国民の福祉を実現するべきだと主張しました。この考え方は、彼の世俗的自然法論が人間の本性に基づくものであったことから、グロティウスの自然法論の世俗化をもたらしました。これにより、三十年戦争後における皇帝権や教皇権の衰退を背景として、諸侯に有利な国家論の基礎が築かれました。

プーフェンドルフの理論は後の法学にも影響を与え、特にザムエル・シュトリクによって彼の見解が「パンデクテンの現代的慣用」として司法実務に根付いたことも特筆すべき点です。

著作

彼の重要な著作には以下が含まれます：

• - 『Elementa jurisprudentiae universalis』(1660年)
• - 『De jure naturae et gentium, libri octo』(1672年)
• - 『De Officio Hominis et Civis juxta Legem Naturalem, Libri Duo』(邦訳『自然法にもとづく人間と市民の義務』、京都大学出版会、2016年)
• - 『De habitu christianae religionis ad vitam civilem』

これらの著作は、彼の法思想を反映しており、近代法学の発展に重要な役割を果たしました。プーフェンドルフは自身の法理論を通じて、国家と市民の関係、そして自然法に基づく義務について深い考察を行い、普遍的な法律感覚の重要性を説きました。

参考文献

プーフェンドルフに関する研究は、田中成明他の『法思想史』（有斐閣）を参考にすることで、彼の思想の背景や影響をより深く理解することができるでしょう。

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