ザムザム

ザムザムの泉

ザムザム（アラビア語: زمزم）は、イスラーム教において特に重要な聖地であるメッカに位置する水源です。この泉は「カアバ」の近くにあり、古くからマッカ地方の貴重な水源として知られています。ザムザムの水は、単なる飲み水としてだけでなく、イスラム教徒にとって聖なる水と見なされ、巡礼に訪れるムスリムにとって特別な意味を持っています。

歴史的背景

ザムザムの泉にまつわる伝承や歴史は、幾世代にもわたり口伝で伝えられてきました。サウジアラビアのアッバース朝時代にあたる9世紀前半、歴史家イブン・ヒシャームによる『預言者伝』や、アズラキーの『メッカに関する言い伝えの書』が著され、これらの文献にザムザムについての記載が初めて行われました。その後、12世紀のイブン・ジュバイルや13世紀の地理学者ヤークートなど、多くの著述家がザムザムの泉に関する詳細な観察や記録を残しています。

近代の研究では、ゴドフロワ＝ドモンビヌの『Le Pèlerinage à la Mekke』が有名で、ザムザムに関する多くの伝承や儀式について深く掘り下げられています。

泉の神話と伝説

ザムザムの泉の伝説によると、その発見はハジャルが息子イスマーイールのための水を求め、周囲を奔走する中で起こります。天使ジブリールが地面を叩くことで泉が湧き出し、そうした奇跡的な出来事によって水が得られたとされています。ハジャルは息子の元へ急ぎ、その泉の水を手ですくって力強い信仰心を抱くこととなりました。

また、ザムザムの泉は歴史的に、マッカの聖域管理を担っていたジュルフム族が管理していましたが、彼らは後にマッカを追放され、泉も埋められてしまったとの言い伝えもあります。再発見したのはアブド・アルムッタリブであり、彼の夢告により正しい場所を見つけられたとされています。この出来事は、ザムザムの泉が宗教的な重要性を持つ一因となりました。

ザムザムの水質

ザムザムの水はポンプで汲み上げられ、やや塩気を感じるとされています。この水はマスジド・ハラームの噴水にも使用されており、特にタワーフの儀式が行われる場所の近くでは容器に詰められ、供給されています。キングサウード大学の調査によると、ザムザムの水はナトリウムやカルシウム、マグネシウムなどを含み、その成分分析結果は以下の通りです。

• - ナトリウム: 133 mg/L
• - カルシウム: 96 mg/L
• - マグネシウム: 38.88 mg/L
• - カリウム: 43.3 mg/L
• - 炭酸水素塩: 195.4 mg/L
• - 塩化物: 163.3 mg/L
• - フッ化物: 0.72 mg/L
• - 硝酸塩: 124.8 mg/L
• - 硫酸塩: 124.0 mg/L
• - pH: 8
• - 化学アルカリ度: 835 mg/L

ザムザムの語源

「ザムザム」という名前は、もともと「水が豊かに供給される状態」を表す言葉であり、類似の表現には「マー・ズマーズィム」があります。これは「枯れることのない水場」を指し、ザムザムの泉が持つ特別な性質を象徴しています。

ザムザムの泉は、単なる水源ではなく、ムスリムの信仰と歴史の重要な象徴となっています。巡礼者たちは、この水を持ち帰ることが許されており、ザムザムの水を持って帰ることは、彼らにとって特別な思い出となるのです。

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