ザ・サン (1833年創刊)

ザ・サン (The Sun)

『ザ・サン』は、1833年から1950年にかけアメリカ合衆国ニューヨークで発行された有力日刊紙です。当時の主要紙『ニューヨーク・タイムズ』や『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』と並び、真摯な報道を行う新聞と見なされましたが、政治的論調は最も保守的でした。しばしば「ニューヨーク・サン」とも呼ばれました。

創刊と「ペニー・プレス」

1833年9月3日、ベンジャミン・デイによって「It Shines for All（万人のために輝く）」をスローガンに創刊。当初は、一銭で購入できる安価なタブロイド紙、「ペニー・プレス」の代表格でした。

ジャーナリズムの刷新

『ザ・サン』は、その革新的な内容と手法で新聞界に大きな影響を与えました。これまでの新聞が政治や書評中心だったのに対し、犯罪や個人的な事件（自殺、死去など）を積極的に取り入れ、普通の人々の生活に密着したニュースを提供しました。ベンジャミン・デイは、読者投稿や他紙からの転載に頼らず、初めて専属記者を雇い、街に出て取材させるスタイルを導入。これは、報道の質や取材・執筆技術の重視につながる重要な一歩でした。また、『ザ・サン』は、購読料や配達に依存せず、街頭販売と広告収入で経営が成立することを実証。エリート層だけでなく、識字率が向上していた一般大衆を主な読者ターゲットとし、新聞発行自体で利益を生み出すビジネスモデルを確立した点でも画期的でした。

歴史と終焉

1887年に夕刊紙『イブニング・サン』を発行。1916年に新聞王フランク・マンセイに買収され、いくつかの再編を経て、1920年には朝刊紙から夕刊紙へと転換されました。この夕刊紙は1950年1月4日まで発行が続けられ、『ニューヨーク・ワールド＝テレグラム』と統合されて『ニューヨーク・ワールド＝テレグラム・アンド・サン』の一部となりました。この新聞はその後も統合を経験し、1967年に最終的に廃刊となり、『ザ・サン』の系譜を持つ新聞は姿を消しました。

特筆すべき出来事

『ザ・サン』の歴史には、いくつかの著名な出来事があります。創刊間もない1835年には、「月のほら話（Great Moon Hoax）」で月面の虚偽記事を掲載し、センセーションを巻き起こしました。今日最も有名と言えるのは、1897年の社説「サンタクロースはいるのですか？」でしょう。特に、フランシス・ファーセルス・チャーチによる「そうです、ヴァージニア、サンタクロースはいるのです（Yes, Virginia, there is a Santa Claus）」の一節は、世代を超えて読み継がれています。ジャーナリズム界でしばしば引用される「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛めばニュースになる」という格言は、市内ニュース編集者ジョン・B・ボガートが生み出したとされています（当時の編集者チャールズ・アンダーソン・ダナの言葉とされる場合もあります）。1947年から48年に連載されたマルコム・ジョンソンによる「ウォーターフロントの犯罪」は港湾労働者の不正を暴く画期的なシリーズとしてピューリッツァー賞を受賞し、映画『波止場』の原作となりました。また、1868年に最初の女性記者エミリー・ヴァーダリー・ベティを雇うなど、女性の新聞記者雇用の初期の事例としても知られています。

遺産

『ザ・サン』の存在は、後の文化や街並みにも影響を残しています。1952年の映画『デッドライン～USA』は、廃刊時の『ザ・サン』がモデルの一つとされ、作中の新聞名『ザ・デイ』は創刊者ベンジャミン・デイに由来します。1972年の映画『ゴッドファーザー』にも、新聞記事のモンタージュシーンにその題号が登場します。かつてのオフィスビル（ロウアー・マンハッタンのブロードウェイ280番地）は「ザ・サン・ビルディング」として現存し、特徴的な時計と共にニューヨーク市のランドマークとなっています。また、2002年には、かつての名を継ぐ『ザ・ニューヨーク・サン』という新たな新聞が創刊されましたが、こちらも2008年に廃刊となりました。

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