ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト

「ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト」（The First Cut Is the Deepest）は、イギリスのシンガーソングライター、キャット・スティーヴンスによって作詞作曲された楽曲です。この曲は、1967年4月にアメリカ人歌手P.P.アーノルドのシングルとして初めてリリースされ、全英シングルチャートで18位を記録しました。その後、キース・ハンプシャー、ロッド・スチュワート、シェリル・クロウといった様々なアーティストによってカバーされ、それぞれがヒットを記録しています。

概要

この楽曲の歌詞は、過去の初恋の傷が癒えず、新たな恋愛関係を築くことに不安を感じている心情を歌っています。キャット・スティーヴンスは当初、自身の楽曲を他のアーティストに提供するソングライターを目指していました。そのため、「ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト」のデモテープも、他のアーティストに売り込むために制作されたものでした。この曲は最終的に30ポンドでP.P.アーノルドに買い取られ、彼女の代表曲となりました。その後、ハンプシャー、スチュワート、クロウによるカバーも国際的な成功を収めています。

キャット・スティーヴンス自身も、P.P.アーノルドのシングルがヒットした後、この曲をレコーディングし、1967年12月に発表したセカンド・アルバム『ニュー・マスターズ』に収録しました。ロッド・スチュワートとシェリル・クロウのカバーバージョンでは、オリジナルの歌詞の最後の2行が省略されており、聴き手に異なる印象を与えています。キャット・スティーヴンスは、この楽曲によって、米国作曲家作詞家出版者協会（ASCAP）の年間最優秀ソングライター賞を2005年と2006年の2年連続で受賞しました。

各アーティストによるバージョン

P.P.アーノルドによるオリジナル

P.P.アーノルドはアフリカ系アメリカ人の歌手で、アイク&ティナ・ターナー・レビューのバックコーラスグループ、ジ・アイケッツの一員でした。彼女は、アイク&ティナ・ターナー・レビューがローリング・ストーンズとツアーを行った際、ストーンズのマネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムに見出され、イギリスに招かれて彼の設立したイミディエイト・レコードと契約しました。彼女が1967年4月にシングルとして発表した「ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト」は、ハープシコード、ホーン、ストリングスをバックに、彼女のエモーショナルなボーカルが際立つアップテンポな楽曲として話題を呼び、全英シングルチャートで18位を記録しました。この曲の最初のプロモーションビデオは、1960年代の著名な映画制作者であるピーター・ロリマー・ホワイトヘッドによって制作され、彼女が同じイミディエイト・レコードに所属するスモール・フェイセスのメンバーとイギリスの海岸で楽しむ様子が描かれています。

キャット・スティーヴンスのバージョン

キャット・スティーヴンスは、P.P.アーノルドのシングルがヒットした後、1967年10月初旬に自身でこの曲をレコーディングし、同年12月に発表したセカンド・アルバム『ニュー・マスターズ』に収録しました。彼は、アーノルドのバージョンが完成されたものだと考えていたため、自身のバージョンをシングルカットすることはありませんでした。

ノーマ・フレイザーのバージョン

ジャマイカの女性歌手、ノーマ・フレイザーは、この曲をカバーし、ロックステディにアレンジして1968年にスタジオ・ワンレーベルから発表しました。

キース・ハンプシャーのバージョン

カナダのシンガー、キース・ハンプシャーは、1973年5月にこの曲のカバーバージョンをリリースし、カナダでナンバーワンヒットを記録しました。

ロッド・スチュワートのバージョン

イギリスにおいて最も有名なバージョンは、ロッド・スチュワートによるものです。このバージョンは、アメリカ合衆国アラバマ州シェフィールドのマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオでレコーディングされ、スチュワートの1976年のアルバム『ナイト・オン・ザ・タウン』に収録されました。そして、「もう話したくない」（I Don't Want to Talk About It）との両A面シングルとしてリリースされ、1977年5月には全英シングルチャートで4週にわたって1位を獲得する大ヒットとなりました。アメリカ合衆国のBillboard Hot 100でも21位まで上昇しました。日本では、このバージョンのみ「さびしき丘」という邦題が付けられています。ミュージック・ビデオでは、スチュワートが精巧な噴水のある幾何学式庭園を歩き回りながら、曲に合わせてリップシンクする様子が描かれています。

シェリル・クロウのバージョン

シェリル・クロウによるバージョンは、2003年のアルバム『ヴェリー・ベスト・オブ・シェリル・クロウ』からシングルカットされた2つのシングルのうちの1つです。この曲は、クロウにとってラジオでの最大のヒット曲となり、Billboard Hot 100に36週にわたってチャートインし続けました。アメリカ合衆国のエアプレーチャートでは1位を獲得してプラチナディスクに認定され、Billboard Hot 100では最高14位に達しました。また、この曲はクロウもゲスト出演しているテレビドラマ『One Tree Hill』のエピソードにも使用されています。ミュージック・ビデオはウェイン・イシャムが監督を務め、クロウが岩だらけの砂漠でギターを持ち、馬に乗ったカウボーイたちと語り合う姿が描かれています。

「ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト」は、時代を超えて様々なアーティストに愛され、それぞれの個性が光るカバーバージョンが生まれています。この曲が持つ普遍的なテーマは、これからも多くの人々の心に響き続けるでしょう。

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