ザ・ブリッジ (スティングのアルバム)

スティング『ザ・ブリッジ』：分断を繋ぐ音楽の架け橋

『ザ・ブリッジ』（The Bridge）は、イギリスのミュージシャン、スティングが2021年に発表した15枚目のスタジオ・アルバムです。前作『ニューヨーク9番街57丁目』から5年ぶりとなる、純粋な意味での新作ソロ・アルバムとしてリリースされました。

制作背景：パンデミックが生んだ「架け橋」

本作は、新型コロナウイルスのパンデミックの期間中に制作された新曲で構成されています。スティングは、このアルバムのタイトルについて「パンデミックと時代の間に挟まれ、政治的にも社会的にも心理的にも、私たちは立ち往生している。だからこそ、架け橋が必要なんだ」と語っています。

レコーディングはリモートで行われ、イギリス、イタリア、フランス、アメリカ、バハマといった5か国のスタジオが使用されました。スティングは、ビリー・ジョエルのアルバム『ザ・ブリッジ』（1986年）や、イアン・バンクスの小説『The Bridge』（1986年）といった同名の作品に賛辞を寄せています。

楽曲解説：多様なテーマと音楽性

アルバムには、多様なテーマと音楽性が込められています。

ザ・ブック・オブ・ナンバーズ：ロバート・オッペンハイマーを題材とした曲で、旧約聖書の『民数記』にも言及しています。
ハーモニー・ロード：ドミニク・ミラーのアルバム『アブサン』（2019年）収録曲「Étude」を元に制作され、ジャック・ブルースのアルバム『ハーモニー・ロウ』（1971年）にインスパイアされたタイトルが付けられています。
ザ・ブリッジ：イギリス民謡「ウォーター・オブ・タイン」にインスパイアされた楽曲で、スティングとミラーの2人だけで録音されました。
キャプテン・ベイトマンズ・ベースメント：「キャプテン・ベイトマン」におけるマヌ・カチェのドラム・トラックに、ボーカルとベースを即興で乗せた曲です。
ドック・オブ・ベイ：オーティス・レディングのカバーで、スティングはこの曲の悲しさとメジャー・コードだけで構成されている点に着目しています。
孤独のニューヨーク：日本盤ボーナス・トラックとして収録。ハリー・ニルソンのカバーで、パンデミックを題材とした短編映画のために録音されました。

リリースと反響

2021年9月1日にアルバムのリリースが発表され、第1弾シングル「イフ・イッツ・ラヴ」のミュージック・ビデオが公開されました。その後、9月30日には第2弾シングル「ラッシング・ウォーター」のミュージック・ビデオも公開されています。

アルバムは、ドイツやスイスのアルバム・チャートでトップ5入りを果たしましたが、アメリカではBillboard 200で101位にとどまり、セールス的には大きな成功を収めることはできませんでした。

批評家の評価

オールミュージックのStephen Thomas Erlewineは、5点満点中3.5点を付け、「鮮明なメロディの感覚を保っている」と評価しました。Ultimate Classic RockのMichael Gallucciは、「フォーク、クラシック、ジャズ、ワールドミュージックなど、大陸もジャンルも幅広く跨いでいる」「過剰に作り込まれた感じがなく、特に満足できる」と評しました。

収録曲

1. ラッシング・ウォーター
2. イフ・イッツ・ラヴ
3. ザ・ブック・オブ・ナンバーズ
4. ラヴィング・ユー
5. ハーモニー・ロード
6. フォー・ハー・ラヴ
7. ザ・ヒルズ・オン・ザ・ボーダー
8. キャプテン・ベイトマン
9. ザ・ベルズ・オブ・セント・トマス
10. ザ・ブリッジ
11. ウォーター・オブ・タイン (ボーナス・トラック)
12. キャプテン・ベイトマンズ・ベースメント (ボーナス・トラック)
13. ドック・オブ・ベイ (ボーナス・トラック)
14. 孤独のニューヨーク (日本盤ボーナス・トラック)

参加ミュージシャン

スティングに加え、ドミニク・ミラー、マヌ・カチェ、ブランフォード・マルサリスなど、豪華なミュージシャンが参加しています。

『ザ・ブリッジ』は、パンデミックという困難な時代に生まれた、スティングの音楽に対する情熱と創造性が詰まった作品と言えるでしょう。分断された世界に「架け橋」を築こうとする彼のメッセージは、聴く人の心に深く響きます。

もう一度検索