ザ・リバー (アルバム)

『ザ・リバー』

『ザ・リバー』は、アメリカを代表するロックアーティスト、ブルース・スプリングスティーンが1980年に発表した通算5作目のスタジオアルバムです。自身初の2枚組アルバムとしてリリースされ、商業的にも批評的にも大きな成功を収め、彼のキャリアにおいて重要な転換点となりました。

制作背景と音楽性

本作の構想は、前作『闇に吠える街』（1978年）制作期や、それに続く1978年のツアーで披露されていた楽曲に遡ります。「独立の日」や「ポイント・ブランク」、「愛しのシェリー」といった楽曲群は、その頃からの蓄積が元になっています。特に「愛しのシェリー」と表題曲「ザ・リバー」は、1979年に行われた安全なエネルギーを求めるチャリティコンサートで披露され、翌年のドキュメンタリー映画『ノー・ニュークス』にもその映像が収録されています。

当初、アルバムは『タイズ・ザット・バインド』というタイトルで、1枚組として1979年に発売される予定でした。しかし、スプリングスティーンは完成した作品に「軽すぎる」と感じ、より深刻なテーマを持つ楽曲、特に表題曲「ザ・リバー」を書き下ろして追加しました。この追加により、アルバムは最終的に2枚組の大作となりました。結果として、『ザ・リバー』は、アップテンポで軽快なロックンロールと、内省的で厳粛なバラードが混在する、独特のコントラストを持つ作品として知られることになります。スプリングスティーンはこの二面性について、「ロックンロールは楽しいものであり、人生には素晴らしい瞬間がある。しかし、同時に厳しさ、無情さ、そして孤独も存在する。人生のこうした矛盾を理解した結果がこのアルバムなんだ」と語っており、意図的に光と影を対比させた構成となっています。

商業的な成功と影響

本作はブルース・スプリングスティーンにとって、商業的な大きな飛躍となりました。収録曲の「ハングリー・ハート」は、彼にとってキャリアで初めてとなる全米チャートのトップ10入り（最高5位）を果たしたシングルです。この曲は元々、パンクロックバンドのラモーンズのために書かれたものですが、プロデューサーであるジョン・ランドーの勧めにより、彼自身が歌うことになりました。アルバム自体も、全米アルバムチャートで初の1位を獲得し、発売から短期間で160万枚以上を売り上げる記録的なヒットとなりました。後にRIAAによってクインタプル・プラチナ（500万枚）に認定され、彼の最も売れたアルバムの一つとなっています。一方で、後続シングルの「消え行く男」は最高20位と、先行ヒットほどの成功には至りませんでした。

アルバム発売後の1980年から1981年にかけては、北米と西欧で長期にわたる大規模なツアーが敢行されました。このツアーを通じて、「キャディラック・ランチ」や「表通りにとびだして」といったアップテンポな楽曲は、その後のライブにおける定番曲として定着しました。

音楽性においては、LPレコードの後半、特に「盗んだ車」や「雨のハイウェイ」といった楽曲の、静かで内省的な雰囲気を持つアレンジは、その後の彼の音楽的な方向性を示唆するものとなりました。

評価とメディアでの使用

『ザ・リバー』は、その音楽的な深みと二面性により、現在でも高く評価されています。『ローリング・ストーン』誌が選ぶ「オールタイム・ベストアルバム500」では253位にランクインし、また、同誌の読者投票による「史上最高の二枚組アルバム」（2014年）では4位に選ばれるなど、批評家およびファンの双方から支持されています。

収録曲は様々なメディアでも使用されており、「ドライブ・オール・ナイト」と「盗んだ車」は1997年の映画『コップランド』の雰囲気を醸成する上で重要な役割を担いました。また、2007年の映画『再会の街で』では、「ドライブ・オール・ナイト」と「表通りにとびだして」が使用されたほか、作中でもアルバム自体への言及があります。

2009年11月8日には、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにて、アルバム全曲を演奏する記念ライブが行われました。

収録曲

Side 1
1. タイズ・ザット・バインド (The Ties That Bind) - 3:34
2. 愛しのシェリー (Sherry Darling) - 4:03
3. ジャクソン刑務所 (Jackson Cage) - 3:04
4. 二つの鼓動 (Two Hearts) - 2:45
5. 独立の日 (Independence Day) - 4:50
Side 2
6. ハングリー・ハート (Hungry Heart) - 3:19
7. 表通りにとびだして (Out in the Street) - 4:17
8. クラッシュ・オン・ユー (Crush on You) - 3:10
9. ユー・キャン・ルック (You Can Look (But You Better Not Touch)) - 2:37
10. アイ・ウォナ・マリー・ユー (I Wanna Marry You) - 3:30
11. ザ・リバー (The River) - 5:01
Side 3
12. ポイント・ブランク (Point Blank) - 6:06
13. キャディラック・ランチ (Cadillac Ranch) - 3:03
14. アイム・ア・ロッカー (I'm a Rocker) - 3:36
15. 消え行く男 (Fade Away) - 4:46
16. 盗んだ車 (Stolen Car) - 3:54
Side 4
17. 恋のラムロッド・ロック (Ramrod) - 4:05
18. ザ・プライス・ユー・ペイ (The Price You Pay) - 5:29
19. ドライブ・オール・ナイト (Drive All Night) - 8:33
20. 雨のハイウェイ (Wreck on the Highway) - 3:54

参加ミュージシャン

Eストリートバンド
ロイ・ビタン - ピアノ、オルガン（「アイム・ア・ロッカー」、「ドライブ・オール・ナイト」）、バックボーカル
クラレンス・クレモンズ - サクソフォーン、パーカッション、バックボーカル
ダニー・フェデリシ - オルガン、グロッケンシュピール
ブルース・スプリングスティーン - ボーカル、エレクトリック・ギター、ハーモニカ、ピアノ（「ドライブ・オール・ナイト」）
ガリー・タレント - エレクトリック・ベース
スティーヴ・ヴァン・ザント - アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、リードギター（「クラッシュ・オン・ユー」）、コーラス、バックボーカル
マックス・ワインバーグ - ドラムス
追加ミュージシャン
ハワード・ケイラン、マーク・ヴォルマン - バック・ボーカル（「ハングリー・ハート」）

制作スタッフ

プロデューサー: ブルース・スプリングスティーン、ジョン・ランドー、スティーヴ・ヴァン・ザント
エンジニア: ニール・ドーフスマン
ミキサー: ボブ・クリアマウンテン、チャック・プロトキン、トビー・スコット
カヴァー・アート: フランク・ステファンコ

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