シェナンドー (飛行船)

USSシェナンドー（ZR-1）：アメリカ海軍初の硬式飛行船

USSシェナンドー（ZR-1）は、アメリカ海軍が保有した4隻の硬式飛行船の中で最初に建造された機体です。1922年から1923年にかけてレイクハースト海軍航空基地で建造され、1923年9月に初飛行を迎えました。シェナンドーは、アメリカ海軍が硬式飛行船に関する経験を蓄積する上で重要な役割を果たしただけでなく、飛行船による初の北アメリカ大陸横断飛行を成功させるなど、数々の功績を残しました。

しかし、1925年9月3日、57回目の飛行中にオハイオ州上空で暴風雨に遭遇し、機体が2つに分裂して墜落。この事故により、ザカリー・ランズダウン艦長を含む14名が犠牲となりました。

設計と建造

シェナンドーは当初、FA-1（艦隊飛行船1号）として計画されましたが、後にZR-1と改称されました。全長207m、重量36トン、航続距離8,000km、最高速度111km/hを誇りました。1921年にレイクハースト海軍航空基地に建設された、当時唯一の格納庫（ハンガーNo.1）で組み立てられました。

シェナンドーの設計は、第一次世界大戦で使用されたドイツのツェッペリンL-49（LZ 96）飛行船を基にしています。しかし、L-49は軽量化を重視した高高度型であり、構造的な脆弱性も抱えていました。そのため、より新しいツェッペリン飛行船の設計が一部に取り入れられ、構造の改善が図られました。骨格は、ジュラルミンと呼ばれるアルミニウムと銅の合金で構成され、外皮は高品質の木綿の布で縫製され、ジュラルミンのフレームに取り付けられた後、アルミニウムドープが塗装されました。

気嚢には、当時最も気密性が高いとされていたゴールドビーターズ・スキンが使用されました。これは、牛の大腸の外膜から作られたもので、洗って脂肪と不純物を取り除いた後、水とグリセリンの溶液に浸して綿布の補強材として接着されました。機体内には20個の気嚢があり、通常気圧で容量の約85%のヘリウムが充填されていました。それぞれの気嚢には、安全弁と手動弁が備えられていました。

シェナンドーは、水素ではなくヘリウムを推進ガスとして使用した最初の硬式飛行船でした。これにより、以前の飛行船と比較して安全性が大幅に向上しました。しかし、当時のヘリウムの供給量は限られており、シェナンドーの210万立方フィート（約6万立方メートル）の容量を満たすためには、当時の世界の備蓄量のほとんどが必要とされました。

動力源は、パッカード・モーターカー・カンパニー製の300馬力8気筒ガソリンエンジンでした。ヘリウムが高価であったため、エンジン排気から水蒸気を回収するコンデンサーを設置し、燃料消費による重量の変化を補うことで、浮力を維持する工夫が凝らされました。

1923年10月10日、エドウィン・デンビー海軍長官夫人によって命名され、艦長のフランク・R・マクラリー中佐に引き渡されました。

運行歴

1923年9月4日に初飛行。第一次世界大戦のドイツ海軍飛行船をベースとして、艦隊偵察任務のために設計されました。1923年9月から10月初旬にかけての試験飛行では、長距離飛行や悪天候下での耐空性調査が行われました。10月27日には、海軍記念日を祝ってシェナンドー渓谷を飛行し、ワシントンD.C.とボルチモアを経由してレイクハーストに帰還しました。

海軍航空局長のウィリアム・モフェット少将は、シェナンドーを北極探検に利用することを検討していました。しかし、1924年1月16日、強風により係留柱から引き剥がされ、船首を損傷。修理に時間を要したため、北極探検計画は中止となりました。

1924年7月には、給油艦パトカ（AO-9）が最初の飛行船母艦として改装され、シェナンドーの乗組員と地上支援要員のための居住設備、ヘリウムやガソリンなどの補給設備、3機の水上機の収容・取扱設備が設けられました。シェナンドーは、パトカへの一連の係留試験を行い、1924年8月8日に最初の係留に成功しました。同年10月には、レイクハーストからカリフォルニア州とワシントン州への飛行を敢行し、硬式飛行船による初の北アメリカ大陸横断飛行を達成しました。

1925年は、年初から約6ヶ月間を保守と地上試験に費やし、6月26日に飛行を再開。7月から8月にかけて、捜索艦隊とともに偵察任務をこなし、給油艦パトカのマストに係留されての曳航も経験しました。

遭難

1925年9月2日、シェナンドーはレイクハーストから中西部の40都市の上空を飛行し、各地の州祭に参加する宣伝飛行に出発しました。9月3日の早朝、オハイオ州上空で雷雨と乱気流に遭遇し、機体がバラバラになって墜落。この事故で、ザカリー・ランズダウン艦長を含む14名が犠牲となりました。

事故は、ランズダウン艦長の反対を押し切って強行されたものでした。彼は、オハイオ州の晩夏によく発生する悪天候を懸念していましたが、上官は飛行船技術の宣伝を優先し、結果的に悲劇を招きました。この事件は、ウィリアム・ミッチェル陸軍大佐が陸軍と海軍の指導部を批判するきっかけとなり、彼の軍法会議と軍歴の終焉につながりました。

事故現場の近くには記念碑と小さな博物館が建てられ、地元の学校ではスポーツチームの名前を「ゼップス」とするなど、シェナンドーとその乗組員を偲んでいます。

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