シオカラトンボ

シオカラトンボ

シオカラトンボ（塩辛蜻蛉、学名: Orthetrum albistylum speciosum）は、日本を含む東アジアに広く分布するトンボの一種です。湿地や水田など、水辺環境を好んで生息し、都市部でも見かけることができるため、日本人にとって非常に馴染み深いトンボと言えるでしょう。

特徴

成虫

シオカラトンボは、体長が50-55mm程度の中型のトンボです。成熟したオスとメスでは、体色が大きく異なります。オスは成熟するにつれて全身が黒くなり、胸部から腹部にかけて灰白色の粉をまとったようになり、その姿が塩をまぶしたように見えることから「シオカラトンボ」という名前が付けられました。この白い粉は、オスが成熟した証です。一方、メスや未成熟なオスの体色は黄色っぽく、黒い斑点が散らばっているため、「ムギワラトンボ（麦藁蜻蛉）」と呼ばれることもあります。ただし、稀にメスでも粉をまとってオスのような体色になる個体も存在します。

幼虫（ヤゴ）

シオカラトンボの幼虫は、体長が20-25mm程度です。他のトンボの幼虫によく見られる背中の棘がないのが特徴です。オニヤンマの幼虫に似た外見をしていますが、顎のギザギザが小さく、掴んだ際にオニヤンマの幼虫のように体を反らせて刺すような行動は見られません。

生態

シオカラトンボは、平地から低山地にかけての開けた環境を好みます。池や小川、水田、公園の池など、様々な水域に生息し、市街地でもよく見られます。成虫も幼虫も肉食で、小型の昆虫を捕食します。幼虫は10回以上脱皮を繰り返して成虫になると考えられており、年に2世代を繰り返すと考えられています。幼虫で越冬し、春から秋にかけて羽化が見られます。羽化は、水面から出た植物の茎や杭、護岸の壁面などで行われます。本州では4月中旬頃から成虫が現れ、10月頃まで見られますが、温暖な沖縄では2月末頃から出現します。

成熟したオスは縄張りを持ち、草の上などに静止して周囲を警戒します。交尾は草や地面の上で行われ、交尾後、オスはメスが産卵を終えるまで警護します。これは、他のオスからメスを守り、自分の子孫を残すための行動と考えられています。シオカラトンボのオスは、交尾の際に、メスが過去に別のオスと交尾した際の精子を受精に使わせないようにする行動をとることが知られています。

産卵は、メスが水面をホバリングしながら腹部末端を水面に叩きつけるようにして行われます。この行動は、平らで光を反射する面に対する反応であるため、車のボンネットや畳の上などで行われることもあります。

分類

シオカラトンボは、広義にはユーラシア大陸に広く分布する Orthetrum albistylum という種に分類されます。そのうち、ヨーロッパに生息するものを原亜種 O. albistylum albistylum、日本を含む極東地域に生息するものを亜種 O. albistylum speciosum として区別します。ただし、亜種として区別するほどの違いはないとする考え方もあります。

シオカラトンボ属 Orthetrum には、世界で60種以上の種が存在し、さらに多くの亜種に分類されています。日本には、以下の9種が生息しています。

シオカラトンボ Orthetrum albistylum speciosum
タイワンシオカラトンボ Orthetrum glaucum
シオヤトンボ Orthetrum japonicum japonicum
タイワンシオヤトンボ Orthetrum japonicum ineternum
ホソミシオカラトンボ Orthetrum luzonicum
ミヤジマトンボ Orthetrum poecilops miyajimaenisis
コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum
ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina
オオシオカラトンボ Orthetrum triangulare melania*

シオカラトンボは、その身近さから、1994年に発行された9円普通切手のデザインにも採用されています。

もう一度検索