シカゴ・パイル1号

シカゴ・パイル1号：人類初の原子炉とその歴史的意義

1942年12月2日、シカゴ大学のスカッシュコートで歴史的な瞬間が訪れました。世界初となる原子炉「シカゴ・パイル1号（CP-1）」が臨界に達したのです。この出来事は、原子力の平和利用と軍事利用の両面において、計り知れない影響を与えました。

マンハッタン計画への道

CP-1の開発は、1939年の核分裂反応発見をきっかけに加速しました。特に、エンリコ・フェルミを中心とした研究チームは、連鎖反応の制御という大きな課題に取り組みました。レオ・シラードらとの協力の下、彼らは連鎖反応の基礎理論を確立し、その成果は1942年に始まったマンハッタン計画へと受け継がれていきました。計画の一環として、CP-1はプルトニウム239生成のための試験炉として設計・建設されました。

極秘裏の建設と臨界到達

CP-1の建設はシカゴ大学のスタッグ・フィールドの地下、極秘裏に進められました。黒鉛ブロックを積み上げた、直径7.5m、高さ6mという、比較的コンパクトな原子炉でした。35トンのウランを燃料として使用し、カドミウム製の制御棒で反応を制御する仕組みでした。緊急停止システムは、斧でロープを切断して制御棒を落とすという、原始的なものでした。

12月2日、実験が始まりました。そして午後3時25分、制御棒が引き抜かれ、CP-1は臨界に達しました。この瞬間、計器の針が振り切り、独特の音が響き渡ったと伝えられています。ワシントンD.C.の計画本部には「イタリア人の航海士が新大陸へ到達した」という暗号電報が送られ、成功を知らせました。

プルトニウム生産と原子爆弾

CP-1の成功は、大規模なプルトニウム生産に向けた大きな一歩でした。ワシントン州ハンフォード地区には、CP-1を大型化したプルトニウム生産炉が建設され、1944年には稼働を開始しました。ここで生産されたプルトニウムの一部は、1945年7月16日のトリニティ実験で使用され、さらに長崎への原子爆弾投下にも用いられました。ハンフォードの原子炉群は、冷戦時代を通じてプルトニウム生産の中核を担い続けました。

CP-1のその後と環境問題

実験終了後、CP-1は解体され、放射線防御設備を強化した上で再構築され、シカゴ・パイル2号(CP-2)として生まれ変わりました。CP-2はアルゴンヌ国立研究所の前身となりました。現在、CP-1とCP-2の跡地は埋め立てられ、環境への影響が懸念されています。特にハンフォード地区では、長年にわたるプルトニウム生産によるコロンビア川への放射能汚染が深刻な問題となっています。

歴史的意義と記念

CP-1は、原子力時代を切り開いた歴史的な建造物です。その功績を称え、1965年にはアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されました。シカゴ大学には記念碑が建立され、シカゴ科学産業博物館などには、CP-1で使用された黒鉛ブロックの一部が展示されています。CP-1の開発は、原子力技術の進歩だけでなく、その技術がもたらす倫理的な課題についても深く考えさせる歴史的事件です。

トリビア：SCRAM

原子炉の緊急停止を意味する「SCRAM」という用語は、CP-1の緊急停止システムに由来するという説があります。斧でロープを切って制御棒を落とすという原始的なシステムから、「Safety Control Rod Axe Man」の略として生まれたという逸話です。

結論

シカゴ・パイル1号は、原子力時代への扉を開いた画期的な原子炉でした。その技術的偉業と歴史的意義は、現代においても色褪せることなく、原子力技術の進歩と平和利用、そしてそのリスクを改めて認識する上で、重要な教訓を与えてくれます。

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