シクラメン

シクラメン：地中海から日本の冬を彩る花

シクラメンは、地中海沿岸地方を原産とするサクラソウ科の多年草です。可愛らしい花姿と豊富な品種から、日本でも冬の鉢植えとして広く親しまれています。この記事では、その魅力を様々な角度から探っていきましょう。

多様な呼び名と学名の由来

日本では「シクラメン」の他に、「カガリビバナ（篝火花）」や「ブタノマンジュウ（豚の饅頭）」といったユニークな呼び名も存在します。「カガリビバナ」は、花の姿を篝火に見立てた牧野富太郎博士による命名です。一方、「ブタノマンジュウ」は、英名を直訳したもので、豚が球根を食べる習性から生まれたと言われています。

学名の Cyclamen persicum は、ギリシャ語の「円」を意味する言葉に由来します。これは、球根の形や、受粉後に螺旋状に変化する花茎に関連していると考えられています。英語圏では「シクラメン」と発音されることもありますが、学名に基づくと「キュクラメン」に近い発音となります。

生態と開花

シクラメンは、地中海沿岸地域に自生し、花茎は垂れ下がるのが特徴です。双子葉植物ですが、発芽時は一枚の葉のみを展開し、数枚の葉が出揃ってから花芽が形成されます。ハート形の葉には白い斑点があり、花茎を伸ばして開花します。

日本の開花期は秋から春にかけてで、花の色は白、赤、黄、桃色など多様です。一重咲きや八重咲きなど、様々な品種があります。開花後は結実しますが、株の負担を減らすため、花柄を取り除くことが推奨されています。球根は茎が肥大したもので、乾燥に強く、地上に露出した状態を好みます。

歴史：西洋と日本のシクラメン

西洋では古くから、球根の澱粉を食用としていました。しかし、有毒物質が含まれるため、ジャガイモなどの普及と共に食用としての習慣は廃れていきました。ギリシャでは球根の形から「ケロニオン（亀）」と呼ばれ、様々な薬効が信じられてきました。

17世紀には、現在の園芸品種の祖先となる C. persicum がイギリスに渡来します。ソロモン王とシクラメンの伝説も有名です。ソロモン王が王冠に花のデザインを取り入れようとした際、多くの花は断りましたが、シクラメンだけが承諾しました。王の感謝に、シクラメンは恥ずかしさと嬉しさのあまりうつむいてしまったという逸話です。この伝説は、シクラメンの花が下向きに咲く様子と、花言葉の「内気なはにかみ」に繋がっていると考えられています。

日本へは明治時代に渡来し、本格的な栽培は岐阜県恵那市で始まりました。戦後、品種改良が進み、花色や花形が豊富な品種が開発されました。現在では、冬の鉢植えとして非常に人気が高く、多くの家庭で栽培されています。なお、日本では「死」や「苦」を連想させるため、見舞いには向かないとされています。

品種改良：ガーデンシクラメンと芳香性シクラメン

従来、シクラメンは鉢植えが主流でしたが、1996年には耐寒性の強い「ガーデンシクラメン」が開発され、ガーデニングブームに乗って普及しました。

一方、芳香性シクラメンは、近年になって開発された品種です。従来の園芸品種は香りが弱かったり、不快な臭いを持つものもありました。そのため、野生種と交配させるなど、長年の品種改良により、バラやヒアシンスのような芳香を持つ品種が誕生しました。埼玉県農林総合研究センターによるバイオテクノロジーを駆使した交配は、世界的に注目を集めました。

原種シクラメン

園芸品種とは別に、近年では原種シクラメンの人気が高まっています。野生種はワシントン条約により輸入規制がありますが、園芸用に品種改良されたものは広く流通しています。

生産と産地

日本のシクラメン生産量は多く、東京都、千葉県、岐阜県、島根県、福岡県などが主要な産地となっています。

まとめ

シクラメンは、その歴史、生態、多様な品種、そして日本における栽培状況など、多くの魅力を持つ植物です。この記事が、シクラメンへの理解を深める一助となれば幸いです。

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