シグナス CRS Orb-1

概要

シグナス CRS Orb-1は、アメリカの宇宙企業オービタル・サイエンシズ（現ノースロップ・グラマン）が運用した無人宇宙補給ミッションです。このミッションは、同社が開発した無人補給機シグナスにとって通算2回目のフライトであり、「Orbital-1」とも呼ばれています。NASAの商業補給サービス（CRS）計画に基づき、国際宇宙ステーション（ISS）へ物資を輸送することを目的とした、オービタル社にとって契約下での最初の補給飛行となりました。打ち上げにはアンタレスロケットが使用され、これはアンタレスにとって3回目の飛行でした。

宇宙機「シグナス」の詳細

CRS Orb-1ミッションで使用されたシグナス宇宙船は、オービタル・サイエンシズ社が国際宇宙ステーションへの定期的な物資輸送を担うために開発した機体です。同社はシグナス宇宙船に、過去に功績を残した宇宙飛行士の名前を冠しており、この機体は2013年8月21日に亡くなったNASAの元宇宙飛行士ゴードン・フラートン氏に敬意を表して命名されました。また、このミッションは、アンタレスロケットの第2段として使用される「Castor30B」エンジンの最初の実証飛行でもありました。

打ち上げまでの複雑な道のり

シグナス CRS Orb-1の打ち上げは、当初2013年11月に予定されていましたが、様々な要因により度重なる遅延に見舞われました。まず、国際宇宙ステーションで冷却システムにトラブルが発生し、その修理作業を優先するための船外活動が必要になったため、NASAの指示により一度ロケットが発射台から組み立て施設へ戻されることになりました。これにより、打ち上げは2013年12月20日（UTC）に延期されました。

ロケットは12月17日にワロップス水平統合施設（HIF）からロールアウトされ、第0A発射台に設置されましたが、ISSの修理作業優先のため戻され、時間制限のある搭載物資が取り下ろされました。新たな打ち上げ日は2014年1月13日に設定されましたが、ワロップス射場での他のスケジュール競合が解決したことで、1月7日に前倒しされました。しかし、発射場周辺の異常な低温により、打ち上げはさらに1日遅れて1月8日となりました。

1月8日にも打ち上げが試みられましたが、これは「ミッション遂行に課される厳しい放射線環境に対して、ロケットの電気系統が許容できる範囲を超える異常に高いレベルの宇宙放射線が観測された」という理由で中止されました。オービタル社はその後、この問題を調査し、より広範な放射線環境の評価を行った結果、アンタレスロケットのシステムが十分に「許容範囲内」であることを確認しました。これらの遅延を経て、最終的な打ち上げ日は2014年1月9日と決定されました。

打ち上げ成功と国際宇宙ステーションへの到達

最終的に、シグナス CRS Orb-1ミッションは、2014年1月9日 18時7分5秒（UTC）、中部大西洋地域宇宙基地の第0A発射台から無事打ち上げられました。ロケットは順調に飛行し、軌道投入後、シグナス宇宙船の太陽電池パドルが無事に展開されました。

打ち上げ時のアンタレスロケットは、アメリカ東海岸の広範囲から観測可能であると予想されていました。サウスカロライナ州からマサチューセッツ州、さらにはウェストバージニア州西部にかけて、ロケットの水平線上での最大高度や、各地での最初の可視時間を示す予測情報が事前に公開されました。

打ち上げから約3日後の2014年1月12日、シグナス宇宙船は国際宇宙ステーションに接近し、カナダアーム2による捕捉・係留に成功しました。

国際宇宙ステーションへの搭載貨物

CRS Orb-1ミッションでシグナス宇宙船には、総量1261kgにおよぶ様々な貨物が搭載されていました。これらの物資は、ISSに滞在するクルーへの支給品や交換用のスペアパーツに加え、ステーションでの研究能力を向上させるための重要な科学実験装置や関連ハードウェアが含まれていました。

特に注目されたのは、学生宇宙飛行実験計画（SSEP）で選ばれた12種類の実験装置です。これらの実験は、北米の1466組のチームと7200人の学生によって考案・実施されました。

主要な科学実験には以下のようなものが含まれていました。
NASAのロボット研究プラットフォーム「SPHERES」を使用した液体の挙動に関する実験（SPHERESスロッシュ実験）。
宇宙環境におけるワクチンや抗生物質の有効性、および薬剤耐性の変化に関する研究。
地球での生産技術向上を目指した、微小重力環境下での物理現象に関する研究。
宇宙空間における炎や液体の特性に関する実験。
* 微小重力下での蟻の行動パターンに関する観察。

これらの貨物は、ISSでの長期滞在や科学研究活動を支える上で不可欠なものでした。

ミッションの終焉

国際宇宙ステーションへの補給と関連作業を終えたシグナス宇宙船は、ISSからの離脱準備に入りました。カナダアーム2（RMS）によってハーモニーモジュールの天底側ポートからの係留が解除されたのは、2014年2月18日 10時25分（UTC）のことです。その後、11時41分（UTC）にRMSから慎重に解放されました。

解放されたシグナスは、国際宇宙ステーションの下方を通過する軌道に移動した後、ステーションから安全に離れるためのマニューバ（軌道変更）を実施しました。ミッションの最後に、シグナス宇宙船は搭載していた1,470キログラムの廃棄物とともに、大気圏への再突入を行いました。再突入は2014年2月19日、南太平洋上の予定された海域で行われ、機体は処分されました。

このミッションは、オービタル・サイエンシズ社による商業補給サービスの信頼性を実証し、その後のISSへの継続的な補給活動の基礎を築きました。

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