商業補給サービス

商業補給サービス（CRS）

商業補給サービス（Commercial Resupply Services; CRS）は、アメリカ航空宇宙局（NASA）が国際宇宙ステーション（ISS）へ貨物や物資を輸送するために実施している一連の契約プログラムです。これは、民間の宇宙輸送サービスを積極的に活用し、ISSの運用に必要な補給を確保するとともに、米国の商業宇宙輸送能力を育成・発展させることを目的としています。

CRSプログラムの根底には、1980年代以降の法律に基づいた商業宇宙飛行オプションの活用促進という政策があります。特に2000年代には、商業軌道輸送サービス（COTS）プログラムが推進され、ISSへの貨物輸送を行うための民間宇宙船やロケットの開発が支援されました。CRSプログラムは、このCOTSプログラムによって開発された技術や機体を活用して、実際のISSへの補給ミッションを実施する段階と言えます。

CRSフェーズ1

最初のCRS契約（フェーズ1）は、2008年12月23日にNASAとスペースX社、そしてオービタル・サイエンシズ社（後のオービタルATK、現ノースロップ・グラマン）との間で結ばれました。この契約に基づき、スペースX社はカーゴドラゴン宇宙船による12回のミッションで16億ドル、オービタル・サイエンシズ社はシグナス宇宙船による8回のミッションで19億ドルを受け取り、ISSへの貨物輸送を請け負うこととなりました。これらの契約は、スペースX社のファルコン9ロケットや、オービタル・サイエンシズ社のアンタレスロケットなど、関連する打ち上げシステムの開発も後押ししました。

CRSフェーズ1の下での最初の運用ミッションは、スペースXが2012年10月に「SpaceX CRS-1」として実施し、オービタル・サイエンシズは2014年1月に「シグナス CRS Orb-1」として実施しました。これに先立ち、両社はCOTSプログラムの一環としてデモンストレーション飛行を成功させています。スペースXは2012年5月にドラゴン宇宙船をISSにドッキングさせる歴史的なデモ飛行を成功させ、オービタル・サイエンシズも2013年9月にシグナス宇宙船のデモ飛行を完了させました。

CRSフェーズ1の運用中には、いくつかの困難もありました。例えば、スペースXの「CRS-7」（2015年6月）や、オービタル・サイエンシズの「シグナス CRS Orb-3」（2014年10月）では打ち上げ失敗が発生しています。特にOrb-3の失敗は、オービタル・サイエンシズが使用していたアンタレスロケットのエンジンの問題に起因しました。この問題を受けて、アンタレスはより信頼性の高いエンジンを搭載した改良型（アンタレス230シリーズ）にアップグレードされ、改良が完了するまでのミッションにはユナイテッド・ローンチ・アライアンス社のアトラスVロケットが代替として使用されました。これらの経験は、プログラム全体の堅牢性を高めることにつながりました。また、契約期間の延長により、両社は当初の契約数を上回る多数のミッションを実施しました。

CRSフェーズ2

ISSへの安定した補給輸送を将来にわたって確保するため、NASAは2014年に次期契約となる商業補給サービスフェーズ2（CRS-2）の募集を開始しました。複数の企業が提案を行い、その中から2016年1月14日にオービタルATK（後のノースロップ・グラマン）、シエラ・ネヴァダ・コーポレーション、そしてスペースXの3社が契約を獲得しました。CRS-2契約では、選定された各社に対して最低6回のミッションが保証され、ISSへの補給輸送における冗長性の向上と、より多様な貨物輸送ニーズへの対応を目指しました。

CRS-2契約の下では、ノースロップ・グラマンは改良型のシグナス宇宙船を、スペースXは「ドラゴン2」と呼ばれる有人宇宙船としても使用される新型のドラゴン宇宙船の貨物仕様機を、シエラ・ネヴァダ・コーポレーションは独自の有翼宇宙船「ドリームチェイサー」の貨物仕様機を使用します。ドリームチェイサーはISSにドッキング後、物資を搭載して地球へ帰還し、滑走路に着陸するという、他の補給機とは異なる特徴を持っています。

CRS-2フェーズは、2019年11月のノースロップ・グラマンによる「シグナス NG-12」ミッションを皮切りに開始されました。これらのミッションは少なくとも2024年まで継続される予定であり、必要に応じて追加の契約も行われています。

輸送要件と貨物単位

CRS契約には、年間で合計数トンにも及ぶ加圧・非加圧貨物のISSへの輸送、および使用済み機材などの返送・廃棄といった具体的な要件が含まれています。これには、電力供給や双方向通信が必要な特殊な実験機器なども含まれます。船内の加圧貨物は、一般的に「CTBE（Cargo Transfer Bag Equivalent）」という標準的なサイズのバッグ単位で取り扱われ、これは商業ユーザーに対する価格設定や課金にも使用される基準となっています。

商業補給サービスは、国際宇宙ステーションの長期にわたる運用を支える上で不可欠なプログラムであり、民間の宇宙輸送能力が政府機関のニーズを満たしうることを実証しています。これは、将来の月や火星への有人探査に向けた補給ミッションなど、さらなる商業宇宙活動の拡大に向けた重要な一歩となっています。

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