シチリアの晩祷

シチリアの晩祷：13世紀の悲劇

「シチリアの晩祷」は、1282年にシチリアで発生した大規模な住民暴動と虐殺事件です。この事件は、シチリアの歴史において重要な転換点となり、後の政治情勢や文化に大きな影響を与えました。この事件は「シチリアの晩鐘」や「シチリアの夕べの祈り」とも呼ばれます。

事件の背景

13世紀当時、シチリア王国はフランス王族であるアンジュー家のシャルル・ダンジューによって支配されていました。ホーエンシュタウフェン家を断絶させたシャルルの支配に対し、シチリアの住民、特にイタリア系の住民の間では不満が鬱積していました。さらに、シャルルは姻戚関係からかつてのラテン帝国の相続権を主張し、ローマ教皇と組んで東ローマ帝国の征服を計画していました。この遠征のために、シャルルは住民から食料や家畜を強引に調達し、これが住民の反発をさらに強める要因となりました。

事件の勃発

1282年3月30日、パレルモでアンジュー家の兵士がシチリア人女性に暴行したことがきっかけとなり、住民の怒りが爆発しました。この出来事を契機に暴動は瞬く間にシチリア全土に広がり、およそ4000人ものフランス系住民が虐殺されるという悲劇に発展しました。この暴動によって、シャルルが東ローマ遠征のために準備していた艦艇の多くも破壊されたと言われています。

事件が発生した3月30日は復活祭の翌日にあたり、教会の前には多くの市民が夕刻の祈り（晩祷）のために集まっていました。暴動が始まった時、晩祷を告げる鐘が鳴り響いたことから、この事件は「シチリアの晩祷（晩鐘）」と呼ばれるようになりました。

事件の影響

シャルルと親しかったローマ教皇マルティヌス4世は、この暴動を十字軍の作戦を妨害するものとして捉え、シチリア島民全員を破門にするという強硬策に出ました。シャルル側も反撃を試みましたが、同年8月、アラゴン王国のペドロ3世（シャルルに敗北したシチリア王マンフレーディの娘婿）がシチリアに上陸し、シャルルの軍勢を打ち破りました。これにより、ペドロ3世はシチリア王位に即位し、シチリア王国はペドロ3世のシチリアとシャルルのナポリ王国に分裂することになりました。

事件の歴史的評価

シャルルと対立していた東ローマ皇帝ミカエル8世は、後に「私はシチリア人に自由をもたらす神の道具である」と述べています。しかし、歴史家のスティーブン・ランシマンは、東ローマの介入の有無に関わらず、この事件はパレルモの民衆がシャルルの野望を打ち砕いた結果であると評価しました。

芸術作品への影響

「シチリアの晩祷」は、その劇的な展開から多くの文芸作品や芸術作品の題材となりました。ダンテ・アリギエーリやジュゼッペ・ヴェルディ（歌劇『シチリア島の夕べの祈り』）などがその例です。また、この暴動を起こした住民が口にしたとされる合言葉「Morte alla Francia Italia anela」（フランスに死を、これはイタリアの叫びだ）の頭文字が「マフィア」（mafia）の語源であるという説もあるほど、この事件は大きな影響力を持っていました。

まとめ

「シチリアの晩祷」は、13世紀のシチリアにおける社会的不満と政治的対立が頂点に達した事件であり、その後のシチリアの歴史に大きな影響を与えました。この事件は、単なる暴動にとどまらず、人々の自由への渇望と支配への抵抗の象徴として、後世に語り継がれています。

この事件を理解することは、中世の地中海世界における複雑な政治情勢や社会構造を理解する上で不可欠です。また、この事件から生まれた多くの芸術作品を通じて、当時の人々の感情や歴史的背景を感じることができるでしょう。

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