シティ・ザット・ケア・フォーガット

『シティ・ザット・ケア・フォーガット』（City That Care Forgot）は、アメリカ合衆国のミュージシャン、ドクター・ジョンが、自身のバンドであるザ・ロウワー・911と共に、ドクター・ジョン・アンド・ザ・ロウワー・911名義で2008年に発表したスタジオ・アルバムです。この作品は、彼が新たに契約を結んだ429レコードからの第一弾リリースとなりました。

背景

アルバムの製作は、2005年にニューオーリンズを襲った大型ハリケーン、カトリーナによる壊滅的な被害と、その後の故郷の復興が遅々として進まない現状に対する強い思いが根底にあります。ドクター・ジョンはこのアルバム発表の前後に、『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者にニューオーリンズ市内を案内しながら、この街が未だに疲弊した状態にあること、そしてどれほど多くの人々が全米各地に離散してしまったかについて、深い憂慮を表明しました。また、2012年の『アンカット』誌のインタビューでは、当時の米国の政治状況、特にジョージ・ブッシュ政権に対する強い不満が製作の動機の一つであったことを語り、直接的な名指しは避けたものの、批判的な楽曲が含まれていることを示唆しました。彼は、自身らが訴えてきた真実が、長い時を経てようやく表面化し始めていると感じていました。

ソングライティングにおいては、「See You Later Alligator」などのヒット曲で知られるボビー・チャールズが複数曲で貢献しています。特に「ブラック・ゴールド」は、石油利権に群がる政界への批判を展開し、それが地球温暖化やイラク戦争といった現代の問題といかにつながっているかを問うた、明確なプロテストソングとなっています。チャールズが単独で作詞・作曲した「プロミシーズ、プロミシーズ」は、チャールズ自身も同時期にリリースしたアルバム『Homemade Songs』に「The Truth Will Set You Free (Promoses, Promises)」のタイトルで収録されています。また、本アルバムの4曲で共作者としてクレジットされているゴート・カーソンは、1994年よりニューオーリンズに居住し、後に牧師となったミュージシャンです。

録音と参加ミュージシャン

本作には、著名なゲストミュージシャンが多数参加しています。エリック・クラプトンが3曲でギターを、テレンス・ブランチャードが2曲でトランペットを演奏しているほか、ウィリー・ネルソンやアーニー・ディフランコといった多彩なアーティストがゲストとして迎えられました。

レコーディング作業は、主にルイジアナ州モーリスのスタジオで行われましたが、一部のパートはニューオーリンズでも録音されました。興味深いのは、ゲストミュージシャンの一部が遠隔地で録音を行っている点です。例えば、エリック・クラプトンのギターはニューヨークで、ウィリー・ネルソンのボーカルはテキサス州スパイスウッドでそれぞれ別録りされています。

主要な参加ミュージシャンは以下の通りです。

ドクター・ジョン：ボーカル、ピアノ、ハモンドオルガン、ホーン・アレンジ
ジョン・フォウル：ギター
デヴィッド・バラード：ベース、バックグラウンド・ボーカル
ハーマン・アーネスト：ドラムス、パーカッション、バックグラウンド・ボーカル
チャーリー・ミラー：ホーン・アレンジ、トランペット
アロンゾ・ボウンズ：ホーン・アレンジ、テナー・サクソフォーン
ジェイソン・ミングルドルフ：ホーン・アレンジ、バリトン・サクソフォーン
ケネス・ウィリアムズ：パーカッション
タイロン・エイケン：バックグラウンド・ボーカル
シャノン・マクナリー：バックグラウンド・ボーカル
The Creodelphic Strings：ストリングス
ワーデル・カゼア：ホーン・アレンジ、ストリングス・アレンジ

ゲスト参加ミュージシャンは以下の通りです。

エリック・クラプトン（ギター）
ウィリー・ネルソン（ボーカル）
テレンス・ブランチャード（トランペット）
ジェイムス・アンドリュース（トランペット）
トロンボーン・ショーティ（トロンボーン）
アーニー・ディフランコ（ボーカル、ギター）
テランス・シミーン（ボーカル）

評価

商業的な成功には恵まれず、ビルボードの各種アルバムチャートにランクインすることはなかったものの、音楽業界からは高い評価を得ました。特に、第51回グラミー賞では最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム賞を受賞。これはドクター・ジョンにとって5度目のグラミー受賞であり、前回の受賞から8年ぶりの快挙となりました。

音楽評論家の評価も概ね良好でした。オールミュージックのThom Jurekは5点満点中4点を付け、「歌詞の深刻なテーマとは対照的に、音楽面ではドクター・ジョンらしさが十全に発揮されており、近年の彼がキャリアの中で最も安定した創造性を保っていることを示す作品である」と評しています。一方、『ローリング・ストーン』誌のMichael Endelmanは5点満点中3点を与え、「ドクター・ジョンの怒りや悲しみは偽りのないものである一方、歌詞がややスローガン的になりがちな側面もある」と指摘しながらも、「彼が自身の故郷の情景を広角レンズで捉えるような描写を行う際には、聴く者を惹きつける鮮烈な瞬間が生み出されている」と、その描写力における長所を評価しています。

収録曲

特記なき楽曲はマック・レベナック（ドクター・ジョン）とボビー・チャールズの共作。

1. キープ・オン・ゴーイン - "Keep On Goin'" - 4:46
2. タイム・フォー・ア・チェンジ - "Time for a Change" (M. Rebennack, Mina Bellavia) - 2:53
フィーチャリング：エリック・クラプトン
3. プロミシーズ、プロミシーズ - "Promises, Promises" (B. Charles) - 3:42
フィーチャリング：ウィリー・ネルソン
4. ユー・マイト・ビー・サプライズド - "You Might Be Surprised" - 3:58
5. ドリーム・ウォリアー - "Dream Warrior" (M. Rebennack, Rev. Goat Carson) - 4:57
6. ブラック・ゴールド - "Black Gold" - 3:11
7. ウィ・ゲッティン・ゼア - "We Gettin' There" (M. Rebbenack, Chris Rose) - 5:11
フィーチャリング：テレンス・ブランチャード
8. ストリップド・アウェイ - "Stripped Away" (M. Rebennack, C. Rose) - 3:34
フィーチャリング：エリック・クラプトン
9. セイ・ワット? - "Say Whut?" (M. Rebennack, Rev. G. Carson) - 4:34
10. マイ・ピープル・ニード・ア・セカンド・ライン - "My People Need a Second Line" (M. Rebennack, Rev. G. Carson) - 5:18
フィーチャリング：ジェイムス・アンドリュース、トロンボーン・ショーティ
11. ランド・グラブ - "Land Grab" - 3:56
フィーチャリング：テレンス・ブランチャード
12. シティ・ザット・ケア・フォーガット - "City That Care Forgot" (M. Rebennack, Rev. G. Carson) - 5:36
フィーチャリング：エリック・クラプトン、アーニー・ディフランコ
13. セイヴ・アワ・ウェットランド - "Save Our Wetlands" - 4:07
* フィーチャリング：テランス・シミーン

日本盤ボーナス・トラック

14. マザー・アース - "Mother Earth" - 4:37

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