シトラール

シトラール（citral）とは、レモンを思わせる特徴的な香りを持つ有機化合物で、モノテルペンに分類されるアルデヒドです。具体的には、ゲラニアール（geranial）とネラール（neral）という、ひと組の幾何異性体の混合物を指す一般的な呼称として用いられます。化学構造においては、ゲラニアールがE体（トランス体）にあたり、ネラールがZ体（シス体）にあたります。別名としてレモナール（lemonal）と呼ばれることもあります。化学的な名称としては、IUPAC命名法に基づき「3,7-ジメチル-2,6-オクタジエナール」と表現され、分子内にアルデヒド基（-CHO）を持つことがその特徴です。

自然界での存在

この化合物は、自然界において様々な植物の精油成分として広く見出されます。特に、アジア料理やハーブティー、アロマテラピーなどで親しまれているレモングラス（Cymbopogon属）やその同属種の精油においては、主要な香気成分として多量に含まれており、これらの植物が持つ特徴的な爽やかなレモンの香りの源となっています。レモングラス油に含まれるシトラールの割合は品種や産地によって異なりますが、しばしば70〜80%以上を占めることもあります。その他にも、リラックス効果が期待されるバーベナ（クマツヅラ）、強いレモン様の香りを持つレモンマートル、そして身近な果物であるレモンやオレンジといった柑橘類の精油成分としても含まれていることが知られています。

香りの特徴

シトラールが持つ心地よい香りは、その構成成分であるゲラニアールとネラールのそれぞれの特性によって生み出されています。ゲラニアールは、よりはっきりと強く、典型的なレモンの香りを放ち、シャープで清涼感のある印象を与えます。一方、ネラールは、レモン様の香りがゲラニアールに比べてやや穏やかであるものの、どこか甘さを感じさせるフルーティーなニュアンスを添えています。これら二つの香りが絶妙に組み合わさることで、シトラール全体としては、清涼感あふれるフレッシュなレモンの香りを醸し出しており、多くの人々に好まれる理由となっています。

用途

その優れた香りの特性から、シトラールは様々な産業分野で幅広く活用されています。

香料・香味料として

香水・化粧品: 清涼感のあるトップノートとして香水やオーデコロン、石鹸、洗剤などに配合され、フレッシュで明るい印象を与えます。
食品・飲料: レモン風味の再現や強化を目的とした香味料として利用されます。キャンディー、清涼飲料水、焼き菓子などの風味付けに用いられるほか、天然のレモン油だけでは得にくい安定した強い香りを付与するために、レモン油の補強剤としても重宝されています。

合成原料として

シトラールは、単に香料として利用されるだけでなく、有機合成化学における重要な出発物質としても価値があります。例えば、視覚に関わる重要な役割を果たすビタミンAの工業的な合成において、主要な中間体として利用されます。また、フローラルな香りを持ち、香料や食品添加物として用いられるヨノン、およびその誘導体であるメチルヨノンといった化合物の合成原料としても重要な役割を果たしています。これらの化合物を効率的に製造するための鍵となる出発物質として、化学産業において不可欠な存在となっています。

安全性情報

化学物質としての取り扱いに関しては、日本の消防法において、シトラールは第4類危険物のうち、第3石油類に分類されています。これは、引火点を持ち、一定の条件で火災の危険性がある液体として指定されていることを意味します。取り扱い、貯蔵、運搬にあたっては、消防法に基づく適切な安全対策や管理が求められます。国際的な情報としては、国際化学物質安全性カード（ICSC）などが発行されており、その安全性に関するより詳細な情報を確認することができます。

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