シノビドジョウ

シノビドジョウ (Misgurnus amamianus)

シノビドジョウは、奄美諸島と八重山諸島にのみ生息する淡水魚で、ドジョウ科に属しています。この魚は、世界遺産に認定された奄美の生物多様性を象徴する重要な種として位置付けられています。1930年代には奄美大島や喜界島から採取された標本が存在していたものの、当初はドジョウとは別の魚であることが認識されていませんでした。

2019年11月、福岡県保健環境研究所の中島淳専門研究員が鹿児島県徳之島の湿地で採取した個体が新種であることを確認し、シノビドジョウと名付けられました。この和名の「シノビ」は、長い間その存在が知られずに忍び続けたことに由来しています。シノビドジョウの新種としての正式な報告は、ニュージーランドの学術誌「ズータクサ」に掲載され、奄美群島特有の魚としての意義が強調されました。2022年7月には、正式な学名が与えられ、奄美地域の固有種であることが一層際立ちました。

分布

シノビドジョウの分布は、日本の奄美諸島の喜界島、徳之島、沖永良部島、奄美大島、さらに八重山諸島の西表島に限られています。しかし、奄美大島では生息環境が開発などの影響で絶滅に瀕している可能性があり、喜界島や沖永良部島でも生存が困難な状況です。特に、徳之島伊仙町内の湿地がその生息地として確認されており、他の地域に生息している個体は人為的に移入された可能性が指摘されています。そのため、真の自然分布は非常に限られており、保存状況も厳しいと考えられています。

形態

シノビドジョウの全長は7〜12cmで、形態的にはドジョウに似ていますが、鰭条がより細く、口ひげが長いのが特徴です。また、尾鰭の後端は中央が少し突出しています。雄の胸鰭には特殊な構造があり、骨質板が斧のような形状をしているのも特筆すべき点です。このような特徴は、他のドジョウ類と区別するための重要な要素となっています。

名称

地域によって異なる呼称が存在し、奄美大島では「デコミ」または「ヂョヂョウ」、徳之島では「タユ」、「ターイゥ」、「ヤットゥイ」などの名前が用いられています。

分類

シノビドジョウは、以前はドジョウ（Misgurnus anguillicaudatus）と混同されていました。しかし、2011年に学名未決定種としてMisgurnus sp. IRの仮称が付けられ、2017年にはシノビドジョウの和名が提唱されました。翌2022年には新種として正式に記載され、奄美群島の生物多様性を支える重要な存在が改めて認識されました。

利用

徳之島では、シノビドジョウが食用として利用されていたという情報が伝わっていますが、現在の状況ではその収穫が持続可能であるかは疑問です。

保全状況

シノビドジョウは生息地の減少や、近縁の外来種との競合によって個体数が減少しています。また、これまでのところ独立した種として十分に研究されていないため、環境省のレッドリストでは情報不足として評価されています。早急にこの魅力的な魚の保存と保全策が求められています。

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