シバ (植物)

シバ (Zoysia japonica)

シバ（Zoysia japonica Steud. 1854）は、イネ科に属する多年草で、日本を代表する芝草の一種です。地下に根茎を長く伸ばし、短い茎を直立させ、地表に葉を広げます。古くから日本庭園や公園、競技場などで利用され、私たちの生活に深く根ざしています。園芸分野では、日本シバ、ノシバという名前でも親しまれています。

特徴

シバは、高さ5～15cmほどの背の低い草本です。主な特徴は以下の通りです。

根茎: 地下を横に這う根茎から茎が伸びます。
匍匐茎: 地表を這う匍匐茎はありませんが、根茎が地表に出ることがあります。
葉: 短く詰まった節から2枚の葉が接近して生えます。葉身は長さ3～10cm、幅2～5mmで、葉舌はなく、葉鞘の口に長い毛があります。若い葉には毛が多いです。
全体: 全体的に硬い質感を持っています。

花

花期は5～6月で、長さ3～5cmの総状花序を形成します。穂は直立し、小穂は歪んだ卵形で長さ約3mm、幅1.2～1.5mmです。小穂には1つの小花のみが含まれ、光沢があります。小穂を構成する頴は、第2包頴と護頴のみで、第1包頴と内頴は退化しています。第2包頴は硬く光沢があり、護頴はそれよりやや短く薄いです。

シバは芝生として利用されることが多く、多くの改良品種が存在し、野生化している例も見られます。

シバの名前は、細葉（ほそは）や繁葉（しげは）に由来すると言われています。

分布と生育環境

シバは、日本全国、朝鮮半島、中国に分布しています。芝生としての利用は、アメリカやヨーロッパにも広がっています。生育環境は広く、日本では北海道から海岸地域、内陸部の標高1500～1800mまで見られます。

日当たりの良い草地を好み、痩せ地や乾燥に強い性質を持ちます。しかし、ススキやマツなどの高い植物が侵入すると衰退します。茎や葉が硬く、踏みつけに強いのも特徴です。

草地の構成種として

日本では、シバを主体とする草原は、人の手が入った草地で形成されます。このような草地は、シバ、ワラビ、ススキの3種が主要な構成種となります。自然の草地ではススキが優占しますが、牧草地ではススキが利用され、ワラビが避けられるため、シバが優占するようになります。シバの種子の発芽には光が大きく影響し、光が当たると発芽が促進されます。

生態

シバは、草食動物と相互に利益をもたらす関係を持っています。シバは生産性が高く、草食動物の摂食に強い耐性があります。放牧地では、ススキ草原の3倍の生産力があり、シカの生息密度もススキ草原の5倍以上になります。シバは、匍匐茎を伸ばしながら直立茎を出し、直立茎は内側から葉を展開させます。頂芽が地面に近い位置にあるため、地上部を食われても成長への影響が少ないです。シバにとって、背の高い植物の繁殖は問題ですが、シカなどの草食動物がこれらの植物を食べることで、シバの生育環境が維持されます。

シバの種子は、シカなどの動物に食べられて広く散布されます。種子は大きく、小穂の密度も高いため、動物による種子散布に有利です。金華山での調査では、1平方メートルあたり4万個もの種子が見つかり、その多くがシカに食べられています。シカの糞には1粒あたり最高20個の種子が含まれており、シカ1頭あたり1日に2万粒もの種子を散布している可能性があります。

分類・類似種

シバ属は、東アジアを中心にアフリカ、オーストラリアまで分布し、15～18種が知られています。日本には5種が知られています。オニシバ、コオニシバは海岸の砂浜に生え、ナガミオニシバは河口域などの塩性湿地に生えます。コウライシバ、コウシュンシバはシバより小さく、葉幅や小穂の幅が半分程度です。これらの種は九州以南に分布し、芝生としても利用されます。

保護の状況

シバはごく普通に見られる種ですが、京都府では要注目種、鹿児島県では分布上重要な種に指定されています。京都府では、開発や除草剤の使用、草地の放棄などにより、生育地が減少しています。ゴルフ場などでシバ以外の種が利用されることも、減少の要因となっています。

利用

芝生用植物として

シバは、芝生を作るために広く利用されています。園芸用にはノシバ、日本シバなどの名前で呼ばれます。日本の気候によく適応し、暑さ、多湿、乾燥に強く、肥料をあまり必要とせず、病害虫にも強いのが特徴です。葉の伸びが少ないため、月1回程度の刈り込みで美しい状態を維持できます。野生種のほか、芝生用に多くの品種が作られています。

シバ属の植物で芝生として利用されるのは、シバ、コウライシバ、コウシュンシバの3種で、これらは総称してZoysiagrassと呼ばれます。これらの種も品種改良され、交配品種も作られています。

日本では古くから庭園で利用されており、桂離宮の蹴鞠の庭が有名です。東アジアにおけるシバの利用は1000年前まで遡ることができ、朝鮮では墳墓を覆う植物として利用されてきました。

アメリカへの導入は1800年代と遅く、その後南北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアに広まりましたが、普及が遅れた地域もあります。シバの利用が遅れたのは、バミューダグラスなどの一般的な芝生との管理方法の違いが理解されていなかったためです。シバは、他の芝生植物に比べて手入れが少なくても維持できます。

その他

日本では、シバは牧草としても利用されてきました。当初は馬用として、最近ではウシやシカ用として用いられています。

参考文献

大橋広好他編、『改訂新版 日本の野生植物 2 イネ科～イラクサ科』、(2016)、平凡社
牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
長田武正、『日本イネ科植物図譜（増補版）』、(1993)、（平凡社）
大久保忠旦、「シバ」：『朝日百科　植物の世界 10』、(1997)、朝日新聞社、：p.290.
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岩瀬徹・飯島和子、『新版 形とくらしの雑草図鑑 見分ける、身近な300種』、2016、全国農村教育協会
主婦の友社編、『芝生＆グラウンドカバー』、(2011)、主婦の友社
嶋田饒、「シバ草地の生態」、(1976)、芝草研究、第5巻第2号: p.5-12.
Donald S. Loch et al. 2017. Ecological Implication of Zoysia Species, Distribution, and Adaptation for Management and Use of Zoysiagrasses. ITSRJVol.13 : p.11-25.
* Se-Hwan Cheon et al. 2021. The Chloroplast Phylogenomics and Syztenatics of Zoysia (Poaceae). Plants 2021, 10, 1517. https://doi.org/plants10081517

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