シマサシガメ

シマサシガメ

学名: Sphedanolestes impressicollis

シマサシガメは、カメムシ目サシガメ科に分類される昆虫の一種です。その名の通り、白と黒の鮮やかなまだら模様と、細長い体、そして長い脚を持つ特徴的なサシガメです。日本の広い範囲で普通に見られる種であり、樹上や草むらで他の小型昆虫を捕らえて生活しています。

形態的特徴

体長は18〜19mmほどで、比較的大型のカメムシです。全体的に光沢のある黒い体色をしており、そこに白い斑紋が散りばめられています。

頭部は細長く、左右の複眼の後方には横溝が走っています。複眼自体は黒色です。触角は非常に細く長い形状をしており、最も長いのは根元に近い第1節、最も短いのは第2節で、その先の節は比較的長い構造をしています。首のように細くなっている頸部を持つことも特徴です。

前胸背部は、中央で前半と後半に分けられます。前半部の前端の縁は小さな棘のように突き出し、背面の中央には縦の溝があり、これにより二つのやや球状の隆起に区切られています。後半部は中央がわずかにくぼみ、後方の両側にある角は丸みを帯びて突き出しています。体色は基調が黒ですが、側角より前方の縁に沿った部分や、あるいは正中線沿いに淡い色の斑紋が現れることがあり、これらの淡色部は個体によって濃淡や有無に差が見られます。小楯板は通常黒色ですが、後端部が淡い色になる傾向があります。

前翅は淡い褐色で半透明の質感です。暗色の翅脈が網目のように走り、その先端は腹部の後端を大きく超える長さがあります。

本種を識別する上で最も特徴的なのは、腹部の側面に見られる鮮やかな白と黒の横縞模様です。これは、腹部の各節の側面が前半部で黒、後半部で黄白色に色分けされているためで、翅を閉じた状態を真上から観察すると、この配色が明確な縞模様として認識できます。

体の腹側では、頭部の中央が白く、胸部は黒。腹部の中央は黄白色ですが、縁の部分には不規則な黒い斑紋が入り、このパターンには多様な変異が見られます。

細長い歩脚もまた特徴的な縞模様を持ちます。黒い地色に、各腿節には3つ、各脛節の基部には1つの黄白色の斑紋があり、これもまた縞模様を形成しています。

分布と生態

日本では本州、四国、九州のほか、伊豆諸島、五島列島、対馬といった周辺の島々にも分布しています。日本国外では台湾、朝鮮半島、中国、インドといった広い範囲に生息する、旧世界に広く分布する種です。

日本国内においては、山地から平地まで比較的一般的に見られる普通種とされています。

主に初夏の時期に活動が活発になり、樹木の枝や葉上、あるいは草むらなどでよく観察されます。

シマサシガメは肉食性のカメムシであり、他の小型昆虫を捕らえて体液を吸う捕食者です。狩りの対象は多様で、ヨモギハムシやアオバネサルハムシ、ナナホシテントウなどの甲虫類、チョウ目の幼虫など、様々な種類の昆虫を捕食します。

興味深い生態として、成虫は音を発する（発音する）習性があることが知られています。

分類上の位置づけと近縁種

シマサシガメが属するシマサシガメ属 (Sphedanolestes) は、約185種が記載されている非常に大きなグループであり、オーストラリアを除く旧世界各地に広く分布しています。日本においては、このシマサシガメ (S. impressicollis) が本土で最も一般的で、他のシマサシガメ属の種はほとんど見られません。

ただし、日本の南西諸島、特に八重山地域からは、シマサシガメ属の別種が報告されています。それがヒメシマサシガメ (Sphedanolestes albipilosus) です。体長は約8.5mmとシマサシガメと比べてかなり小型で、体色や斑紋のパターンはシマサシガメに似ていますが、最大の特徴である歩脚の縞模様が見られない点で明確に区別できます。石垣島や西表島に分布し、国外では台湾からも記録があります。八重山の於茂登岳山頂付近では比較的よく確認され、採集されるのは初夏の短期間に集中する傾向があるようです。

シマサシガメに似た外見を持つ種は、他の属にも存在します。ヤニサシガメ (Verinus nodipes) もその一つで、全体が黒く光沢があり、歩脚に黄白色の縞模様がある点が共通します。しかし、ヤニサシガメの方が歩脚の縞模様がより明瞭で数も多い点で区別できます。この種はマツの木の上で生活することが知られており、体表がマツヤニを浴びたような粘り気を帯びている点も特徴的です。

また、モンシロサシガメ属 (Rynocorys) の種もシマサシガメ属と形態が似ています。特にモンシロサシガメ (Rynocorys leucospilus) は、腹部の縁に沿って白い斑点が並ぶ点でシマサシガメと共通しますが、脚には縞模様がありません。この種は本州の北部から北海道にかけて分布し、さらに千島列島やシベリアまで広がる北方系のカメムシで、北海道では比較的よく見られる種とされています。

なお、和名に「シマサシガメ」と付くアカシマサシガメ (Haematoloecha nigrorufa) は存在しますが、この種はシマサシガメとは斑紋や形態が大きく異なります。分類上もシマサシガメとは異なるビロウドサシガメ亜科に属しており、全体的にやや平たく、がっしりした体つきをしています。

参考文献

石井悌他編, 『日本昆蟲圖鑑』, (1950), 北隆館
安永智秀他, 『日本原色カメムシ図鑑』, (1993), 全国農村教育協会
石川忠他編, 『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』, (2012), 全国農村教育協会
安松京三他, 『原色昆虫大圖鑑 〔第3巻〕』, (1965), 北隆館

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