シモネッタ・ヴェスプッチ

シモネッタ・カッタネオ・ヴェスプッチ（1453年 - 1476年）は、ルネサンス期のフィレンツェで「比類なき美女」と称えられた女性です。彼女は、メディチ家の当主ロレンツォ・デ・メディチの弟であるジュリアーノ・デ・メディチの愛人として知られています。

彼女の出生地には諸説あり、ポルトヴェーネレやジェノヴァが有力候補として挙げられています。15歳の若さで、探検家アメリゴ・ヴェスプッチの遠縁にあたるマルコ・ヴェスプッチと結婚しました。

シモネッタの名を不朽のものとしたのは、画家サンドロ・ボッティチェッリとの関係です。1475年4月、フィレンツェのサンタ・クローチェ広場で開催された馬上槍試合（ジオストラ）で、ジュリアーノ・デ・メディチはシモネッタを自らの「イナモラータ（愛人）」として選びました。この時、ボッティチェッリが描いた女神の旗印が掲げられ、そのモデルがシモネッタであったとされています。この旗印の制作をボッティチェッリに勧めたのは、シモネッタの夫であるマルコ・ヴェスプッチだったという説もあります。

ヴェスプッチ家を通じてボッティチェッリに見出されたシモネッタは、その美しさから多くの画家たちの創作意欲を刺激し、彼女を描くために多くの芸術家がフィレンツェに集まりました。しかし、彼女とボッティチェッリの出会いからわずか1年後、シモネッタは肺結核のため、22歳という若さでこの世を去りました。

シモネッタの死後、ボッティチェッリは彼女をモデルとしたとされる「ヴィーナスの誕生」を完成させました。この作品は、彼女の死から9年後に完成しましたが、シモネッタがこの絵画のモデルであるという説は広く受け入れられています。この作品はルネサンス美術の傑作として、現在も多くの人々を魅了しています。

また、ピエロ・ディ・コジモもシモネッタの肖像画を描いており、彼女の美貌が当時の芸術家たちに多大な影響を与えたことを物語っています。

日本においては、東京都千代田区竹橋にある丸紅ギャラリーが所蔵するボッティチェッリの真作が、シモネッタ・ヴェスプッチを描いたものと同定されています。これは日本国内で唯一のボッティチェッリの真作であり、彼女の美を現代に伝える貴重な作品です。

シモネッタ・ヴェスプッチは、短い生涯ながらも、その美貌と芸術的な影響力によって、ルネサンス文化において重要な役割を果たしました。彼女の存在は、多くの詩や絵画のインスピレーションとなり、後世にまで語り継がれています。

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