シャットゥルアラブ川

シャットゥルアラブ川の概要

シャットゥルアラブ川（アラビア語: شط العرب‎、英: Shatt al-Arab）は、イラクとイランの国境を流れる重要な川で、ティグリス川とユーフラテス川が合流して形成されます。この川の長さは約200kmで、ペルシャ湾に注いでいます。沿岸には、イラクのバスラやイランのホラムシャハル、アーバーダーンといった重要な港湾都市が位置し、両国の貿易や航行において重要な役割を果たしています。

由来と名称

名称について、イラク側では「シャットゥルアラブ」と呼ばれ、この言葉はアラビア語で「アラブ人たちの川」を意味します。一方、イランではこの川を「アルヴァンド」と呼び、こちらは中世の文献においても別の川を指す名称として用いられた経歴があります。時代とともに呼称が変わり、特に20世紀以降にはシャットゥルアラブ川に対してアルヴァンドの名前が使われるようになりました。

流域と生態系

この川流域は豊かな湿地帯であり、広大なナツメヤシの林が広がっています。1970年代初めには、世界最大のナツメヤシが約1700万本も存在し、これは全世界のナツメヤシの5分の1に相当しました。しかし、戦争や塩害、病害の影響で、この数は大幅に減少し、2002年には約1400万本が枯死しました。さらに、近年では上流でのダム建設によって川の流量が減少し、海水の侵入が問題となっています。

歴史的背景と国境問題

シャットゥルアラブ川は、その地理的利便性から、イラクとイランの間で長年にわたり国境や航行権を巡っての対立の舞台となっています。特に1980年代には、イラン・イラク戦争の一因ともなり、この川を巡る紛争は基本的な領土問題に発展しました。特にオスマン帝国とサファヴィー朝の間での国境問題が根底にあり、歴史的な条約がその後の対立の基盤を形成してきたのです。

イラン・イラク戦争においては、シャットゥルアラブ川が両軍の間で激しい戦闘が展開された場所でもあり、イラクの戦争指導者サッダーム・フセインによるイランへの侵攻が引き起こしました。その後の戦争においてもこの川は戦略的に重要な舞台となり、しばしば両国の緊張を引き起こしました。

最近の状況

2003年のイラク戦争後、シャットゥルアラブ川は人道支援物資の供給ラインとして重要視され、地域の安定確保のための戦略的場所とされました。その後もイギリスの海軍による監視が続き、国際的な航行の安全が確保されるよう尽力されています。

しかし、川の状況は未だ複雑で、土砂の堆積や海水の逆流により、運河としての役割は挑戦を受けています。今後の流域の管理は、イランとイラクの二国の協力によって成り立つことが求められています。シャットゥルアラブ川は、単に地形的な水路の一つではなく、地域の歴史と戦略、経済の要でもあるのです。

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