シャドウ・DN9

シャドウ・DN9：影に潜む闘志と、その後の波紋

1978年から1979年にかけて、フォーミュラ1の世界でひっそりと、そして激しく戦ったマシン、シャドウ・DN9。その名は、設計者トニー・サウスゲートの最後のシャドウ作品として、そして後に大きな訴訟問題を引き起こすマシンとして、F1の歴史に刻まれています。

期待と現実の狭間：DN9の戦いの軌跡

シャドウ・DN9は、アメリカ西グランプリからそのキャリアをスタートさせました。搭載されたのは、当時F1の主流であったフォード・コスワース・DFVエンジン。グッドイヤータイヤを履いたこのマシンは、ベテランドライバー、クレイ・レガツォーニとハンス＝ヨアヒム・スタックを擁し、レースに挑みました。

しかし、DN9の戦いは容易ではありませんでした。予選では苦戦を強いられ、レガツォーニですら5回の予選落ちを経験するなど、後方集団に沈むことが多かったです。それでも、二人のドライバーの卓越したドライビングスキルにより、5位入賞を3回記録。その潜在能力の一端を垣間見せる結果となりました。

1979年シーズンもDN9は引き続き使用されました。ドライバー陣は、レガツォーニとスタックに加え、ヤン・ラマースとエリオ・デ・アンジェリスというフレッシュな顔ぶれが加わりました。しかし、予選での低迷は変わらず、入賞は最終戦でのデ・アンジェリスの4位のみという厳しい結果に終わりました。マシンの競争力の不足が、ドライバーの技量を凌駕したと言えるでしょう。

DN9とアロウズ：影を継ぐ者たちの争い

DN9の設計者であるトニー・サウスゲートは、その後、アラン・リース、ジャッキー・オリバーと共にシャドウチームを離れ、新たなチーム、アロウズを設立しました。そして、サウスゲートは、DN9の設計図を基に、アロウズ・FA1を開発しました。しかし、このFA1は、DN9とあまりにも酷似していたため、「コピーマシン」としてシャドウチームから訴訟を起こされることとなります。

この訴訟は、F1界を揺るがす大きな事件となりました。最終的に、シャドウチームが勝訴し、アロウズはFA1の使用を禁止されました。アロウズはシーズン終盤に、FA1を全面的に再設計したA1を投入することで、シーズンを戦い抜くことを余儀なくされたのです。この事件は、F1における技術開発と知的財産権保護の重要性を改めて浮き彫りにしました。

シャドウDN9：スペックと記録

シャーシ: DN9

タイヤ: グッドイヤー

エンジン: フォード・コスワース・DFV

気筒数・角度：V型8気筒・90度
排気量：2,993cc
最大出力：約510馬力

1978年成績（DN8を含む）

コンストラクターズランキング：11位
レガツォーニ：ドライバーズランキング16位、予選最高位8位、決勝最高位5位
スタック：ドライバーズランキング18位、予選最高位15位、決勝最高位5位

1979年成績

コンストラクターズランキング：10位
ラマース：予選最高位14位、決勝最高位9位
* デ・アンジェリス：予選最高位12位、決勝最高位4位

シャドウDN9は、その戦闘力や訴訟問題だけでなく、F1マシンの設計や開発、そしてチーム運営における様々な側面を象徴する存在として、モータースポーツ史に名を刻んでいます。その影は、今もなお、F1の歴史の中に深く刻まれているのです。

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