シャルルマーニュの巡礼

シャルルマーニュの巡礼

『シャルルマーニュの巡礼』（原題：Le Pèlerinage de Charlemagne、あるいは Voyage de Charlemagne à Jérusalem et à Constantinople）は、中世の古フランス語で綴られた武勲詩、すなわちシャンソン・ド・ジェストに分類される作品です。フランク王国の偉大な君主シャルルマーニュと、彼に仕える高名な騎士たち、パラディンたちが繰り広げる架空の冒険物語を描いています。現存する最古の写本は1140年頃に成立したと考えられていますが、15世紀にも新たに作成された二種類の異本も知られています。

物語の概要

物語は、フランク王シャルルマーニュが自身の王妃に対し、自分が世界で最も優れた、あるいは最も端麗な王であるかを問いかける場面から始まります。しかし、王妃がビザンツ帝国の皇帝ユーゴ（この物語に登場する架空の人物）こそが、真に美しく輝かしい地位にあると答えたことから、シャルルマーニュは激しい憤りを覚えます。この些細な出来事がきっかけとなり、シャルルマーニュは憤慨したまま、十二勇士を含むパラディンたちを伴い、真の巡礼者を装ってビザンツ帝国を目指す旅に出ます。

一行はまず聖地エルサレムへと向かいます。そこで彼らはエルサレム総主教庁の高位聖職者と面会する機会を得ます。この出会いを通じて、シャルルマーニュは聖遺物を土産として授けられるとともに、ローマ皇帝に匹敵する位階をも受け取る栄誉にあずかります。エルサレムを後にした帰り道、彼らはビザンツ帝国の壮麗な都、コンスタンティノープルに立ち寄ります。その街は驚くほどに美しく、富に満ち溢れており、不正な窃盗や貧困とは無縁の理想郷として描かれています。そこでシャルルマーニュたちは、王妃が称賛した皇帝ユーゴと対面します。ユーゴはまさに王妃の言葉通り、類稀なる美貌と輝かしい栄光を持つ人物でした。

ユーゴ皇帝はシャルルマーニュ一行を自身の宮殿に招き入れます。この宮殿は特異な構造をしており、一本の柱の上に築かれており、風向きによって建物全体が回転するという仕掛けが施されていました。シャルルマーニュとパラディンたちは、皇帝によって丁重にもてなされ、美しい部屋を割り当てられます。しかし、彼らが気付かぬうちに、その部屋にはユーゴ皇帝が派遣した間諜が隠れていました。

夜になり、シャルルマーニュとパラディンたちは宴席で酒を過ごした結果、酔いに任せて大いに騒ぎ始めます。彼らは互いに、自身の並外れた能力や武勇について、冗談交じりに誇張した話を語り合います。例えば、勇将オリヴィエは一晩でユーゴ皇帝の娘と百回床を共にできると豪語し、トルパン大司教は、それぞれの足を二頭の別々の馬に乗せたまま立ち上がり、同時にリンゴをジャグリングできると主張するなど、他の者たちも同様に現実離れした法螺話を披露します。しかし、翌朝になってこれらの大言壮語が皇帝の間諜によってユーゴに筒抜けになっていたことが判明し、シャルルマーニュとパラディンたちは大いに恥じ入ります。彼らは宿舎に退がり、深い恥辱を感じます。

窮地に立たされたシャルルマーニュたちは、エルサレムで授けられた聖遺物の前で熱心に祈りを捧げます。すると、奇跡的に天使が現れ、シャルルマーニュのために助力を惜しまないことを申し出ます。天使の導きを得て、一行は再びユーゴ皇帝のもとへ戻ります。シャルルマーニュは、前夜の自慢話は決して法螺ではなく、実際に成し遂げることができるのだと主張します。

当初、ユーゴ皇帝はその言葉を信じませんでしたが、神の加護を受けたパラディンたちは、前夜に豪語した全ての奇妙な試練を次々と成功させます。この驚くべき光景を目の当たりにしたユーゴ皇帝は、シャルルマーニュたちの真の力に感服し、敬意を表してフランク王の家臣となることを誓います。こうして無事にフランク王国へ帰還したシャルルマーニュは、旅の原因となった王妃を許し、この経験を通じて以前にも増して敬虔な信仰心を持つ王となるのでした。

（参照：原野昇『一写本の運命』）

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