シャルル1世 (フランドル伯)

シャルル1世は、11世紀後半から12世紀前半にかけてフランドル伯として統治した人物で、その慈悲深い行いから「善良伯（Charles le Bon）」とも称されています。カトリック教会からは福者として列福されており、その生涯は多くの人々に感銘を与えました。

生い立ちとフランドルへの移住

シャルル1世は、デンマーク王クヌーズ4世と王妃アデル・ド・フランドルの間に、1083年頃にオーデンセで誕生しました。当時はカール（Karl）という名で呼ばれていました。しかし、1086年に父クヌーズ4世がオーデンセ大聖堂内で暗殺されるという悲劇に見舞われ、母アデルは幼いシャルルを連れてフランドルへと逃れました。この時、双子の姉たちはデンマークに残されました。フランドルでは、祖父ロベール1世と伯父ロベール2世が統治する宮廷で育てられ、デンマーク王族としての出自を持ちながら、フランドルでその後の人生を歩むことになります。

1092年、シャルルの母アデルは、プッリャ公ルッジェーロ・ボルサと再婚するため、シャルルを残してイタリアへ旅立ちます。この出来事は、シャルルがフランドルで自身の道を切り開いていく上で重要な転換点となりました。

フランドル伯としての即位

1111年、伯父ロベール2世が亡くなり、いとこのボードゥアン7世がフランドル伯として即位します。シャルルは、ボードゥアン7世の助言者として宮廷内で重要な役割を担うようになります。1118年頃、ボードゥアン7世は、シャルルとクレルモン伯ルノー2世の娘でアミアン伯相続人であるマルグリット・ド・クレルモンの結婚を斡旋しました。この結婚は、シャルルの社会的地位をさらに確固たるものにしました。しかし、ボードゥアン7世は、1118年の戦いで負傷したことが原因で翌年急逝しました。後継者がいなかったボードゥアン7世は、亡くなる前にシャルルを後継者として指名しました。そして、1119年7月、シャルル1世は正式にフランドル伯として即位しました。

統治とユダヤ人追放

フランドル伯となったシャルル1世は、領内の統治に尽力しました。1125年には、領内で発生した大飢饉の原因をユダヤ人に帰し、彼らを領内から追放しました。しかし、飢饉の間、シャルル1世は貧しい人々にパンを配り、穀物の買い占めや高値での売買を厳しく取り締まりました。また、影響力の大きかったエランバル家が農奴に対して行っていた不正を正そうとしました。このようなシャルルの行動は、民衆からの支持を集める一方で、エランバル家との対立を深めることとなりました。

暗殺と民衆の反応

シャルルの施政に不満を持ったエランバル家は、聖ドナティアン教会の聖職者ベルテュルフを中心として、シャルル暗殺を企てました。1127年3月2日、シャルルは教会で祈っていたところを、エランバル家の騎士たちによって殺害されました。この暗殺事件は、シャルルを敬愛していた民衆の怒りを買い、暗殺を実行したエランバル家の人々は、ブリュージュやヘントの貴族や民衆によって拘束され、拷問を受けました。この出来事は、シャルルが民衆からいかに慕われていたかを示しています。シャルルは、正式な列福は1882年まで待たなければなりませんでしたが、その死後すぐに殉教者、そして聖人として民衆に崇められました。

暗殺後の政治的混乱

シャルルの死後、フランドル伯の地位を巡って混乱が生じました。フランス王ルイ6世は、エランバル家に対する民衆の反乱を支援し、自らが推していたギヨーム・クリトンを次のフランドル伯にしようとしました。この一連の出来事は、シャルルの死が、フランドルの政治情勢に大きな影響を与えたことを示しています。

シャルル1世の生涯は、その慈悲深い統治と、悲劇的な暗殺を通して、中世ヨーロッパの歴史に重要な足跡を残しました。彼が「善良伯」として称えられる所以は、その生涯における人道的行いと、民衆からの深い信頼に根ざしていると言えるでしょう。

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