シャーンドル・ヴェーグ

シャーンドル・ヴェーグ：ヴァイオリンと指揮の巨匠

シャーンドル・ヴェーグ（Sándor Végh, 1912年5月17日 - 1997年1月6日）は、20世紀を代表するハンガリー出身のヴァイオリニストであり、後に指揮者としても国際的に活躍した音楽家です。その生涯は、音楽への深い愛情と卓越した才能、そして教育者としての情熱に彩られています。

生い立ちと音楽の道へ

1912年、オーストリア・ハンガリー帝国時代のコロジュヴァール（現在のルーマニア・クルージュ＝ナポカ）で生まれたヴェーグは、6歳からピアノを始め、12歳でブダペストのリスト音楽院に入学しました。ここでは、ヴァイオリンをイェネー・フバイに、作曲をコダーイ・ゾルターンに師事し、音楽家としての基礎を築きました。1927年には、リヒャルト・シュトラウスの指揮のもと、ソリストとしてデビューを果たし、その才能を広く認められました。同年にはフバイ賞とレメーニ賞を受賞し、1930年にリスト音楽院を卒業しました。

室内楽への情熱

卒業後、ヴェーグはソリストとして活動する傍ら、1935年にはハンガリー四重奏団を結成。当初は第1ヴァイオリンを務めましたが、後にゾルターン・セーケイが加入すると、第2ヴァイオリンに転じました。この四重奏団は、バルトークの弦楽四重奏曲第5番の初演を担当するなど、20世紀の室内楽における重要な存在となりました。

1940年、ヴェーグはハンガリー四重奏団を離れ、リスト音楽院の教授に就任。同時に自身の名を冠したヴェーグ四重奏団を設立し、精力的に活動を展開しました。1946年には、この四重奏団がジュネーヴ国際音楽コンクールで第1位を獲得し、その実力を世界に示しました。

亡命と新たな活動

その後、ヴェーグはハンガリーを離れ、亡命生活を送ることになりました。しかし、彼の音楽への情熱は衰えることなく、ソリストや室内楽奏者としての活動を継続。1953年にはフランス国籍を取得しました。1950年代には、パブロ・カザルスに招かれてサマークラスに参加し、プラド音楽祭にも毎年出演しました。

指揮者としての才能開花

1960年代後半からは、指揮者としての活動も本格化させました。1962年にはチェルヴォ国際室内楽音楽祭を創設し、自ら設立したシャーンドル・ヴェーグ室内管弦楽団を指揮しました。1970年代には、マールボロ祝祭管弦楽団の指揮も務め、その才能をいかんなく発揮しました。1979年からはモーツァルテウム・カメラータ・アカデミカの指揮者として、モーツァルト作品の演奏で高い評価を得ました。特に、ディヴェルティメントとセレナーデの録音は、1989年のフランス・ディスク大賞を受賞しました。

教育者としての貢献

ヴェーグは、バーゼル音楽院、フライブルク音楽院、デュッセルドルフ音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院など、数々の教育機関で教鞭を執り、後進の育成にも力を注ぎました。彼の指導を受けた門下生の中には、古澤巌、渡辺實和子、佐藤多美子、松井直樹、カルミナ四重奏団など、著名な音楽家が多数います。

音楽への功績と晩年

ヴェーグの音楽への貢献は、数々の賞と栄誉によって称えられています。1986年にはレジオンドヌール勲章シュヴァリエ章、1987年にはウォーリック大学とエクセター大学の名誉職、ザルツブルク・ゴールドメダル、1988年には大英帝国勲章コマンダー章を授与されました。1997年1月6日、ヴェーグはオーストリア・ザルツブルク近郊の病院で、84歳でその生涯を閉じました。彼の音楽に対する情熱と卓越した才能は、今もなお多くの音楽家や音楽ファンに感銘を与え続けています。

シャーンドル・ヴェーグは、ヴァイオリニスト、室内楽奏者、指揮者、教育者として、音楽界に大きな足跡を残しました。彼の音楽は、これからも長く人々に愛され続けるでしょう。

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