コダーイ・ゾルターン

コダーイ・ゾルターン：ハンガリー音楽の巨匠とその多大な遺産

コダーイ・ゾルターン（1882年-1967年）は、20世紀を代表するハンガリーの作曲家であり、民俗音楽学者、教育者、さらには言語学者や哲学者としても知られる多才な人物でした。彼の活動は音楽のみに留まらず、教育改革や民族文化の保存にも及ぶ、幅広い影響力を持っています。

幼少期と音楽への目覚め

1882年、ハンガリーのケチケメートに生まれたコダーイは、ガラーンタとナジソンバト（現在のスロバキア）で幼少期を過ごしました。音楽好きだった父親の影響を受け、幼い頃からヴァイオリンを習い始め、聖歌隊で歌い、作曲にも挑戦しました。しかしながら、本格的な音楽教育を受けたわけではありませんでした。

ブダペストでの学びと民謡との出会い

1900年、コダーイはブダペスト大学でハンガリー語とドイツ語を学び始めます。同時に、ハンガリー王立音楽院（現在のリスト・フェレンツ音楽大学）にも入学し、作曲をハンス・ケスラーに師事しました。ケスラーはブラームスの音楽を高く評価する保守的な作曲家でした。

この頃、コダーイは民謡の採集活動に本格的に取り組み始めます。1905年から人里離れた村々を訪ね歩き、ハンガリーの伝統音楽を収集しました。1906年には「ハンガリー民謡の詩節構造」という論文を発表し、民俗音楽学の分野における重要な研究者としての地位を確立していきました。

この活動を通じて、彼は後に生涯の友人となるバルトーク・ベーラと出会います。二人は共にハンガリー民謡の研究と収集を行い、民謡集を出版しました。コダーイ自身の作品にも民謡の影響が強く反映されています。

パリでの研鑽と作曲家としての活動

哲学と言語学の博士号を取得後、コダーイはパリに留学し、シャルル＝マリー・ヴィドールに師事します。パリ滞在中には、ドビュッシーの音楽に影響を受けました。1907年にブダペストに戻り、ブダペスト音楽院の教授となります。

第一次世界大戦中も民謡収集を続け、1910年にはシャーンドル・エンマと結婚しました。エンマ自身も作曲家・ピアニストとして活躍しており、コダーイとバルトークの出会いは、エンマの師であるドホナーニとバルトークの縁がきっかけでした。

コダーイは弦楽四重奏曲、チェロソナタ、ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲などを発表しますが、初期の作品は必ずしも大きな成功を収めたわけではありませんでした。しかし、1923年に「ハンガリー詩篇」が初演され大成功を収め、以後、ヨーロッパ各国で自身の指揮により演奏活動を行うようになります。

音楽教育への貢献：コダーイ・メソッド

1925年に作曲した児童合唱曲「ごらん、ジプシーがチーズを食べている」をきっかけに、コダーイは音楽教育に強い関心を抱くようになりました。彼は多数の教育用楽曲や書籍を出版し、その教育方法は「コダーイ・メソッド」と呼ばれ、世界中で大きな影響を与えました。「コダーイ・メソッド」は包括的な手法というよりも、音楽教育の原理を示したものであったと言われています。

多彩な作品群と晩年

コダーイはプロの合唱団のための作品や、「マロシュセーク舞曲」、「ガランタ舞曲」、「『孔雀』による変奏曲」、「ミサ・ブレヴィス」といった管弦楽曲などを作曲しました。オペラ「ハーリ・ヤーノシュ」の組曲も有名です。

第二次世界大戦中はブダペストに留まり、戦争末期には愛国的な歌曲も作曲しました。戦後、彼はハンガリー国民芸術会議の議長を務め、数々の栄誉を受けました。1956年のハンガリー動乱の際には、大統領候補に推されることもありました。

1958年に妻エンマを亡くした後、再婚し、晩年は海外を積極的に訪問し、講演や会議に参加しました。1967年にブダペストで死去しました。

コダーイは、作曲家としての業績だけでなく、民俗音楽研究や音楽教育への貢献でも、ハンガリー文化に計り知れない影響を与えた人物です。彼の作品は現在も世界中で愛され演奏され続け、その教育思想は音楽教育界に大きな足跡を残しています。

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