シュトヘル

『シュトヘル』は、伊藤悠による日本の漫画作品で、小学館の『ビッグコミックスピリッツ』と『月刊!スピリッツ』で連載されました。西夏文字を題材とし、激動の時代を生きる人々の姿を描き出しています。第16回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。

あらすじ

13世紀初頭、モンゴル帝国の侵攻に苦しむ西夏国。人々から「悪霊（シュトヘル）」と恐れられた一人の女戦士がいました。一方、現代の日本。高校生の須藤は、戦場の悪夢に悩まされる日々を送っていました。

ある日、須藤は転校生のスズキとの出会いをきっかけに、800年前に処刑されたシュトヘルとして蘇ります。西夏文字を巡る陰謀と戦乱の中で、シュトヘルは自らの運命と向き合っていくことになります。

物語の展開

西夏の学者たちは、モンゴルによって滅ぼされることを予期し、西夏文字を後世に残すため、娘たちに玉音同（西夏文字が刻まれた玉）を託しました。しかし、ツォグ族はモンゴル軍に敗北し、西夏文字の徹底的な殲滅が始まります。

西夏人のシュトヘルは、復讐のためにモンゴル軍と戦い、ツォグ族のハラバルを狙います。ハラバルの弟ユルールは、老従者ボルドゥから西夏文字を託され、玉音同を持って南宋を目指すことになります。旅の途中でシュトヘルを用心棒として雇いますが、当初はユルールをハラバルをおびき寄せるための道具としか考えていませんでした。しかし、ユルールから文字を教わるうちに、二人の間には絆が生まれます。

シュトヘルはハラバルとの戦いに敗れ処刑されますが、その肉体に現代の高校生・須藤の魂が宿り蘇ります。ユルールとボルドゥは戸惑いながらも、玉音同を運び続ける決意を新たにします。

一方、ハラバルはモンゴル帝国の命令を受け、西夏の国立図書館である番大学院を襲撃し、玉音同を奪おうとします。学院長のグルシャンとの激闘の末に勝利しますが、玉音同は見つかりません。その後、ハラバルはヴェロニカ率いる軍隊によってツォグ族が滅ぼされたことを知らされ、ユルールの首と玉音同を求めて追跡を開始します。

ユルールたちは金国の将軍ジルグスに捕らえられますが、ハラバルの襲撃によって救われます。シュトヘルとハラバルはユルールの前で死闘を繰り広げますが、決着はつかず、ハラバルは去っていきます。

モンゴル帝国の皇子ナランは、弟ユルールと玉音同を手に入れるため、ヴェロニカを利用して策略を巡らせます。ユルールたちは金国を経て京兆府（長安）に入りますが、ナランの罠にかかり、玉音同は奪われ、シュトヘルは重傷を負います。

ハラバルはモンゴル帝国から追われる身となり、「シュトヘル」と呼ばれるようになります。ユルールを連れたナランと、玉音同を取り戻そうとするシュトヘルは、居庸関で再び交錯します。

物語は、西夏文字の存続をかけた人々の戦いと、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、激動のクライマックスへと向かっていきます。

登場人物

シュトヘル: 西夏の女戦士。須藤の魂が宿り蘇る。
須藤（スドー）: 現代の高校生。シュトヘルの肉体に魂が宿る。
ユルール: ツォグ族の少年。玉音同を託され、西夏文字を後世に伝えようとする。
スズキ: 須藤のクラスに転校してきた少女。ユルールに似た面立ちを持つ。
ボルドゥ: ツォグ族に仕える下男。実は西夏の番大学院の高官。
ハラバル: ツォグ族の族長の息子。弓の名手。
テムジン: モンゴルの指導者。チンギス・ハン。
ヴェロニカ: 大ハンに仕える金髪碧眼の美女。目的のためなら手段を選ばない。
ナラン: 大ハンの息子。策略家。
トルイ: 大ハンの息子。ナランの双子の弟。
メルミ: ナランに付き従う少女。歌で動物を操る能力を持つ。

作品の魅力

『シュトヘル』は、歴史的背景に基づいた重厚な世界観、個性的なキャラクター、そして激しいアクションシーンが魅力の作品です。西夏文字という滅びゆく文化を巡る物語は、読者の心を強く揺さぶります。

巻末には、死亡したキャラクターがあの世の居酒屋で語り合うおまけ漫画も掲載されており、本編とのギャップが楽しめます。

書誌情報

伊藤悠『シュトヘル』小学館〈ビッグスピリッツコミックススペシャル〉、全14巻
[各巻の情報は省略]

シュトヘル