シュルッパク

シュルッパク（𒋢𒆳𒊒𒆠, ŠuruppagKI）は、メソポタミア南部に栄えた古代シュメールの重要な都市の一つです。今日ではテル・ファラとして知られる遺跡であり、イラク南部のカーディーシーヤ県、古都ニップルから南へおよそ55キロメートル、かつてユーフラテス川が蛇行していたほとりに位置していました。この都市の守護神は、豊穣と大気を司る女神ニンリル（あるいはスドゥ）でした。

遺跡の規模と環境

テル・ファラ遺跡は、南北におよそ1キロメートルにわたって広がっており、その総面積は約120ヘクタールに及びます。特に中心部には、周囲の平野から3メートル以上、場所によっては最大で9メートルも高くなった遺丘が形成されており、これは古代から長期にわたって人々がこの地に住み続けた痕跡を示しています。

神話と歴史における位置づけ

シュルッパクは、シュメール文明の神話や伝説において非常に重要な役割を果たしています。

シュメール王朝表: シュメールの王統を記した『シュメール王朝表』によれば、歴史は伝説的な「大洪水」を境に分けられており、シュルッパクは大洪水以前の時代において、最後に「王権」が天から降ろされた都市とされています。この都市の最後の王とされるウバルトゥトゥは、非常に長い年月（18,600年）を統治したと伝えられています。
シュルッパクの教訓と洪水物語: 前2千年紀に書かれたとされる文学作品『シュルッパクの教訓』には、都市と同じ名前を持つ賢人シュルッパクが、息子のジウスドラに対して様々な人生の教訓を授ける場面が描かれています。このジウスドラは、同時期の別の神話において、大洪水を生き延びて不死を得た人物として語られています。また、有名な『ギルガメシュ叙事詩』では、ウバルトゥトゥの息子ウトゥナピシュテム（Uta-na'ishtim）がシュルッパクの王として登場し、彼が大洪水を逃れ、後にウルク王ギルガメシュの訪問を受けるという物語が展開されます。

このように、シュルッパクはシュメールの人々にとって、伝説上の「大洪水」と深く結びついた記憶の地であり、人類の存続や知恵の伝承といった重要なテーマに関わる都市として認識されていました。

考古学的な調査と発見

シュルッパク遺跡は、近代に入って何度か組織的な調査が行われています。

1900年にヘルマン・フォルラート・ヒルプレヒトが簡単な予備調査を実施。
1902年にはドイツ・オリエント学会による本格的な発掘が行われ、数百点に及ぶシュメール初期王朝時代の粘土板文書が発見され、ベルリンやイスタンブルの博物館に収蔵されました。
1931年にはアメリカの研究機関合同チームが調査を行い、多数の粘土板を追加で発見。この調査には、伝記作家サミュエル・ノア・クレイマーも参加していました。
1973年にはハリエット・P・マーティンが表面調査を実施し、出土した土器片から、シュルッパクが少なくとも前3000年頃のジェムデト・ナスル期には既に存在し、初期王朝時代に大きく拡大したこと、さらにアッカド帝国時代やウル第3王朝時代にも存続していたことが確認されました。

発掘調査の結果、シュルッパクは古代において穀物の貯蔵と分配の主要な拠点であったことが判明しています。遺跡からは多数の穀物サイロ跡が発見されており、当時の都市経済において農業生産物が極めて重要であったことを示唆しています。

遺跡の歴史と遺物

考古学的な最も古い層は、およそ前3000年頃のジェムデト・ナスル期に遡ります。この時期の終わり頃には、考古学的な証拠として河川の氾濫による洪水があったことが確認されています。ただし、この局地的な洪水とシュメール神話に語られる世界規模の「大洪水」を結びつける説は、現在では空想的なものと見なされています。

ジェムデト・ナスル期の層からは、多色に彩られた土器が見つかっています。

シュルッパクは、特にシュメール初期王朝時代3期（前2600年頃〜前2350年頃）にかけて大規模に拡張され、約100ヘクタールの広大な都市となりました。しかし、この時代の終わり頃に都市は破壊され、火災に見舞われた痕跡が見られます。この破壊による火災が、泥レンガの壁や、数千点に及ぶ粘土板文書を焼成し、後の時代にそれらが保存される結果となりました。

この初期王朝時代3期の層からは、大量の楔形文字粘土板が発見されています。これらの中には、土地の所有に関する記録、ウルクなど他都市出身者を含む多数の労働者の名前リスト（6580人分）、各種の行政管理文書などが含まれており、初期王朝時代のシュメール社会の構造、経済、行政を知る上で、非常に貴重な第一級の史料を提供しています。

また、シュルッパクからは、前4千年紀末から前3千年紀初頭（ジェムデト・ナスル期頃）に年代付けられる、メソポタミアでも早期の部類に入るヒ素銅製の製品も出土しています。

都市は、前2000年を少し過ぎた頃に最終的に放棄されたと考えられていますが、シュミットの調査では、それより後のイシン・ラルサ時代（前2千年紀初頭）に属する円筒印章や土器製の装飾板も少数ながら発見されています。しかし、遺跡から出土する遺物の大部分は、初期王朝時代に属するものです。

シュルッパク遺跡は、その神話的な重要性に加え、古代メソポタミアの社会、経済、行政の実態を解明する上で欠かせない、多くの考古学的情報と文書史料を提供してくれる場所として、今もなお研究対象となっています。

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