ニンリル

ニンリル：広野と風を司るシュメールの女神

ニンリル（シュメール語: 𒀭𒊩𒌆𒆤, DNIN.LÍL）は、シュメール神話においてエンリルの配偶神として知られる重要な女神です。「広野の女王」または「風の女王」と解釈される名前を持ち、別名としてスド、アッシリアではムリッスとも呼ばれていました。

親子関係の多様性

ニンリルの親子関係については、複数の異なる伝承が存在します。

一般的な説: 収穫の神ハイアと、大麦の女神ヌンバルシェグヌ（またはニサバ）の娘
アッカド語文献: アヌ（アン）神とアントゥ女神（シュメールではキ）の娘
別の文献: アヌとナンムの娘

このように、ニンリルの出自は一定していませんが、いずれの説も彼女が神々の血を引く高貴な存在であることを示唆しています。

神話におけるニンリルの役割

ニンリルは、神話の中で様々な役割を担っています。

エンリルとの出会いと出産: ディルムンで暮らしていたニンリルは、エンリルに暴行を受け、月神ナンナ（シン）を身ごもります。この罪によりエンリルは冥界へ追放され、ニンリルも彼を追います。冥界でエンリルは変装し、ニンリルとの間にネルガル、ニンアズ、エンビルルといった冥界に関わる神々を次々と生ませます。これは、ナンナを昇天させるための身代わりを必要としたためとされています。
ニヌルタの母: 文書によっては、英雄神ニヌルタの母であるともされます。ニヌルタは、鎚鉾シャルウルを振るって鬼神アサグを退治したことで知られています。
風の女神: 死後、ニンリルはエンリルと同じ風神となり、『アダパ』の物語に登場する「南風の女神」と同一視されることがあります。これは、夫エンリルが冬の北風と結び付けられるのと対照的です。

後世への影響

ニンリルは「風の女王」として、アッカドの悪魔リリートゥと関連付けられ、ヘブライのリリス伝説の原型になったと考えられています。彼女の神話は、豊穣、冥界、そして悪霊といった様々な要素を結びつけ、後世の文化に影響を与えました。

スドからニンリルへ

元々スドという名で呼ばれていたニンリルは、エンリルとの結婚を通じてその名を得たとされています。エンリルは彼女を自身の位にふさわしい高座に据え、人々に祈りを捧げさせました。そして、彼女に「出産の女王」「膝を広げる御方」という意味を持つニントゥルの名を授けました。これにより、スドはニンリルとして広く知られる存在となったのです。

ニンリルは、シュメール神話において重要な役割を果たした女神であり、その神話は豊穣、冥界、そして風といった自然現象を象徴していました。彼女の物語は、後世の文化にも影響を与え、様々な形で語り継がれています。

参考文献

Michael Jordan, Encyclopedia of Gods, Kyle Cathie Limited, 2002.

外部リンク

Ancient Mesopotamian Gods and Goddesses: Ninlil (Mulliltu, Mullissu, Mylitta) (goddess)
* Assyro-Babylonian Mythology FAQ

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