ジウスドラ

ジウスドラ：シュメールの大洪水伝説の英雄

ジウスドラ（シュメール語: 𒍣𒌓𒋤𒁺、Ṣíusudrá、古代ギリシア語: Ξίσουθρος、Xísouthros）は、紀元前2900年頃のシュルッパクに実在したとされる人物で、シュメール王名表において、大洪水以前の最後の王として記録されています。彼はエリドゥ創世記における英雄であり、バビロニアの歴史家ベロッソスの記録ではクシストロスとして知られています。

ジウスドラは、アトラ・ハシース、ウトナピシュティム、そして旧約聖書のノアなど、古代近東における洪水神話の主人公の一人として位置づけられています。これらの物語はそれぞれ独自の特徴を持ちながらも、大洪水という共通のモチーフを通して、古代の人々の世界観や倫理観を反映しています。

文献と考古学的根拠

WB62改訂版シュメール王名表によれば、ジウスドラはシュルッパクの王として、大洪水以前の最後の王とされています。記録には、彼が王かつgudgu（清めや浄化を司る）司祭として10サール（36,000年間）統治したとありますが、これは書記官の誤りである可能性が指摘されています。ジウスドラは、父であるウバラ・ツツから王位を継承し、ウバラ・ツツもまた10サールの間シュルッパクを統治したとされています。

考古学的な証拠としては、キシュ市が初期王朝時代に繁栄したことが、シュルッパク（現テル・ファラ）、ウルク、キシュなどの遺跡の堆積層から明らかになっています。これらの遺跡は、放射性炭素年代測定によって紀元前2900年頃のものと特定されており、シュルッパクの洪水層の真下の層からは、ジェムデト・ナスル期（紀元前30世紀頃）の多彩色陶器が発見されています。

マックス・マローワンは、ウェルド・ブランデル・プリズム（WB62）に基づき、シュメールのノアとも言えるジウスドラが、差し迫った災害の警告を受けていたことを指摘しています。彼の救世主としての役割は、ギルガメシュ叙事詩におけるウトナピシュティムの役割と一致しており、碑文や考古学的な発見は、ジウスドラが歴史的な都市における先史時代の支配者であったことを裏付ける十分な根拠になると述べています。

シュメールの洪水神話

ジウスドラの物語は、シュメール語で書かれた一枚の粘土板によって知られています。この粘土板は、文字の形式から紀元前17世紀（バビロン第1王朝）のものと推定され、1914年にアルノ・ポーベルによって出版されました。物語は、人間や動物たちの創造、最初の都市であるエリドゥ、バド・ティビラ、ララク、シッパル、シュルッパクの建設について語り始めます。

物語の欠損部分からは、その後神々が人類を滅亡させるために洪水を起こしたことが推測されます。エンキ神（冥界にある真水の海の支配者で、バビロニアのエア神に相当するシュメールの神）は、シュルッパクのジウスドラに大きな船を建造するように忠告します。しかし、船に関する具体的な指示を説明する箇所は欠損しています。

粘土板の記述が再開されると、洪水についての描写が記されています。激しい嵐が七日間にわたって続き、「大きな船は大海原に揺り動かされた」後、ウトゥ（太陽神）が現れます。ジウスドラは窓を開けてひれ伏し、牛と羊を生贄として捧げます。再び内容の欠損が見られますが、テキストが再開すると洪水は明らかに終わっており、ジウスドラはアン（天の神）とエンリル（大気の神）にひれ伏しています。アンとエンリルはジウスドラに「永遠の命」を与え、彼をディルムンに住まわせることにしました。叙事詩の残りの部分は失われています。

ジウスドラ叙事詩は、洪水の後、ジウスドラ王が「太陽が昇る場所、KURディルムンに住まわされた」という、他の版には見られない要素を加えています。シュメール語におけるKURは、山、外国、土地といった複数の意味を持つ曖昧な言葉です。サミュエル・ノア・クレイマーは、KURの主な意味は「山」であり、山を表す象形文字が使用されていることからも明らかであると指摘しています。また、山岳地帯がシュメール人にとって脅威であったことから、「外国」という意味が派生し、最終的には土地全般を意味するようになったと述べています。

クシストロス

クシストロスは、シュメールのジウスドラをヘレニズム化したもので、バビロンの神官ベロッソスの記述で知られています。アレクサンドロス・ポリュヒストルは、メソポタミアに関する情報をベロッソスに大きく依存していました。この洪水神話における興味深い点は、ギリシア式の解釈として、シュメールの神エンキが、ゼウスの父であるギリシアの神クロノスと同一視されていることです。また、クシストロスが建造した葦船が、少なくともベロッソスの時代まではアルメニアの「コリュレキアン山脈」に残されていたとも主張されています。

その他の出典

ジウスドラは、ギルガメシュの死や初期支配者の詩、シュルッパクの教訓の後の版など、メソポタミアの古代文学においても言及されており、彼の物語が古代社会に与えた影響の大きさを示しています。

ジウスドラの物語は、単なる神話としてだけでなく、古代メソポタミアの人々の世界観、倫理観、そして自然との関わり方を理解するための重要な手がかりとなります。

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