ショクダイオオコンニャク

ショクダイオオコンニャク（学名：Amorphophallus titanum）は、サトイモ科コンニャク属に属する被子植物です。別名スマトラオオコンニャクとも呼ばれます。その巨大な花序、枝分かれした一枚の巨大な葉、そして大きな地下球茎を持つことで知られ、「世界最大の花」としてしばしば取り上げられますが、正確にはこれは花序であり、単体の花としてはより小型です。この植物は、インドネシアのスマトラ島の熱帯雨林にのみ分布する固有種です。

生態と特徴的な開花

ショクダイオオコンニャクの最も際立った特徴は、その珍しい開花生態にあります。開花は最短でも２年に一度と非常に不定期であり、しかも開花期間はわずか２日間ほどしかありません。この短い期間に送粉者である特定の昆虫を引き寄せるため、開花時には腐肉が腐敗したような極めて強烈な悪臭を放ちます。この臭いから、英名では「corpse flower（死体花）」あるいは「corpse plant（死体植物）」として知られています。インドネシア語の現地名「bunga bangkai」も、同様に「死体の花」を意味します。また、その独特な姿から「お化け蒟蒻」という別名もあります。

分類と名称の由来

本種は1878年にイタリアの植物学者オドアルド・ベッカーリによって学術的に記載されました。ベッカーリは同年にスマトラ島西部でこの植物を発見し、その標本をヨーロッパへ持ち帰りました。当初はConophallus titanumと命名されましたが、翌1879年にジョヴァンニ・アルカンジェリが詳細な記載を行い、現在はコンニャク属 (Amorphophallus) に分類されています。コンニャク属は、子房に単一の室を持つことを特徴とし、アフリカ、アジア、オーストラリアなどに広く分布しています。

属名「Amorphophallus」は古代ギリシャ語で「形のない・いびつな」（amorphos）と「男根」（phallos）に由来し、花序の形状を表しています。種小名「titanum」は「巨人」を意味するタイタンに由来し、その巨大さにちなんでいます。和名のショクダイオオコンニャクは、花序の形が燭台に似ていることに由来します。

分布と生息環境

ショクダイオオコンニャクはスマトラ島西部の固有種であり、特に石灰岩質の丘陵にある熱帯雨林内の、比較的開けた場所に生育しています。近年は気候変動や生息地の破壊といった影響により、その生息域は減少傾向にあります。スマトラ島内でも、アチェ州南部や北スマトラ州の一部地域に比較的多くの個体群が確認されています。

形態と生態サイクル

ショクダイオオコンニャクの生育は、葉を展開する期間と休眠期間を繰り返す独特なサイクルで行われます。

葉: 種子から発芽した個体は、毎年一本だけ非常に大きな葉を伸ばします。この葉は緑と白の斑模様がある太い葉柄から生じ、上部で３つに大きく分岐し、それぞれに多数の小葉がつきます。成長すると高さは４メートルを超えることもあり、全体として小さな木のような姿に見えます。葉柄は人の太ももほどの太さになることもあります。この葉で光合成を行い、蓄えた養分は地下の球茎にデンプンとして蓄積されます。約一年が経過すると葉は枯れ、球茎は休眠期間に入ります。
球茎: 葉が枯れた後、地下の球茎（塊茎とも呼ばれる）は約４ヶ月間休眠します。休眠から覚めると再び新たな葉を生成し、球茎に栄養を供給するサイクルを繰り返します。このサイクルは最大で約７年間続きます。ショクダイオオコンニャクの球茎は既知の被子植物の中では最大級の大きさに育ち、記録上は90キログラムを超えるものも存在します。
花序: 球茎が十分に大きく養分を蓄えると、葉ではなく花序を伸ばし始めます。種子から最初の開花までは10年ほどかかることがありますが、一度開花すると、その後は３年から７年程度の間隔で開花することが多くなります。花序全体の高さは３メートルを超える巨大なものになります。花序は仏炎苞（ぶつえんほう）と呼ばれる、花びらに似た大きな苞に包まれています。仏炎苞の外側は濃い緑色にクリーム色の斑点があり、内側は濃いバーガンディレッドや海老茶色を呈しています。その表面はうねがあり、縁はフリル状になっています。仏炎苞の鞘の中に隠された肉穂花序の基部近くには、多数の小さな花が密集しています。上部には450個から5,000個もの小さな雄花が、下部にはピンク色の雌花が並びます。開花直前には、仏炎苞の基部にある２枚の葉のような苞が枯れ落ちます。雌花は雄花より先に開花する「雌性先熟」という仕組みを持っており、これにより自身の花粉で受粉することを防いでいます。開花は通常24時間から36時間ほど持続します。

受粉のメカニズム

仏炎苞がゆっくりと開くと、内部の肉穂花序の温度は37℃近くまで上昇し、腐肉を餌としたり卵を産み付けたりする腐肉食の昆虫（シデムシやニクバエなど）を引き寄せるために、周期的に強烈な悪臭を発します。この悪臭は、送粉者の活動が活発になる夕方から真夜中にかけて特に強くなり、朝方に向かって弱まっていきます。この悪臭には、腐敗臭や排泄物のような様々な化学物質（ジメチルトリスルフィド、トリメチルアミン、インドールなど）が含まれており、0.8キロメートル離れた場所からでも感知できるほど強力です。深紅の色と肉のような質感を持つ仏炎苞と相まって、昆虫はこれを死体と誤認して引き寄せられます。開花中の肉穂花序の先端部が人間の体温に近い温度になるのは、香りの揮発を促すためと考えられています。また、この熱によって周囲の空気中に微小な対流が生じ、香りの拡散を助ける効果もあります。仏炎苞に着地した甲虫は、漏斗状に開いた仏炎苞の内部に転がり落ち、中心部の花序に集められます。もし他の花で花粉を体に付けた個体がここに落ちてきた場合、花序最下部の雌花の柱頭に花粉が付着し、受粉が成立します。翌日になると雌花の受粉機能は停止し、代わりに雄花から花粉があふれ出し、甲虫の体に降りかかります。その後、花序の付属体と仏炎苞が枯れ崩れることで、花粉をまとった昆虫は外へ脱出し、別のショクダイオオコンニャクを求めて飛び去り、そこで再び受粉に寄与する可能性があります。

果実と種子散布

無事に受粉した雌花の部分は成熟し、果実へと変化します。仏炎苞や肉穂花序の上部が枯れた後には、朱色の液果をつけた短い穂が残ります。この果実はサイチョウなどの鳥類を引きつけ、鳥が果実を食べることで種子が散布されます。穂は約９ヶ月後に枯れ落ち、地下の球茎は約一年間休眠状態に入ります。そして再び新しい葉を生成し、成長サイクルが再開されるのです。

「世界最大の花」比較

「世界最大の花」としてショクダイオオコンニャクと並んで有名な植物に、同じく強烈な腐臭を放つラフレシア属のラフレシア・アルノルディイ（Rafflesia arnoldii*）があります。ラフレシア・アルノルディイの花は最大で直径90センチメートルにも達し、送粉者を誘引する単位器官である「花」としてはこちらの方が大きいです。しかし、ラフレシアが単体の花であるのに対し、ショクダイオオコンニャクの巨大な「花」は花序と呼ばれる構造体であり、そこに密集する個々の単体の花は非常に小さいものです。そのため、単体の花として世界最大なのはラフレシア・アルノルディイとされています。両者とも腐臭を放って腐肉や獣糞で繁殖する昆虫を誘引し花粉を媒介させる点は共通しますが、ラフレシアが主にクロバエ科のハエに依存しているのに対し、ショクダイオオコンニャクは糞虫やシデムシ類といった甲虫によって花粉が媒介される点が異なります。特に、シデムシ科のアカモンオオモモブトシデムシやハネカクシ科のミナミオオハネカクシなどが、その送粉に大きく貢献していることが分かっています。

栽培と記録

ショクダイオオコンニャクは、栽培下での開花が非常に珍しく、大きな話題となります。記録に残る初の栽培下での開花は、1889年にロンドンの王立キュー植物園で成功したものです。これはベッカーリから送られた一本の苗から育てられたといいます。米国では、1937年と1939年にニューヨーク植物園で開花したのが最初の記録とされており、1939年にはブロンクス区の「花」に指定されたほどです（2000年にワスレグサ属に変更）。その珍しい開花は多くの観客を惹きつけ、近年ではインターネットでのライブ配信が行われるまでになりました。ボン大学付属植物園では1932年から栽培が続けられており、その開花頻度は世界的に見ても高いことで知られています。詳細な栽培条件が解明されてきたことにより、現在では世界中の多くの植物園で栽培が行われており、21世紀に入ってからは世界全体で年に５回以上の開花が見られるようになっています。栽培上の制約が厳しいため、植物園以外での個人による栽培は難しいとされていますが、2011年にはカリフォルニア州のローズビル高校で開花した珍しい事例もあります。

これまでに記録された最大の球茎は、2010年にエディンバラ王立植物園で栽培されたもので、オレンジ大の大きさから７年間で成長し、重量153.9キログラムに達した記録があります。記録されている最も高い花序は、ベルギー国立植物園で栽培されたもので、2024年8月13日に高さ3.225メートルに達しました。

ショクダイオオコンニャクは通常、種子から最初の開花までに５年から10年もの長い年月を要します。最初の開花後は、その後の開花頻度には個体差が見られます。７年から10年は再び開花しないこともあれば、２、３年ごとに開花することもあります。ボン大学付属植物園では、最適な栽培条件下で、なんと一年ごとの開花に成功した例もあります。また、コペンハーゲン大学植物園では、一つの株が2012年から2022年まで、ほぼ二年ごとに開花した記録があります。稀に、一年以内に連続して開花したり、一つの球茎から葉を二枚同時に出したり、葉と花序を同時に出すといった異常な開花も記録されています。ボン大学付属植物園では、117キログラムの球茎から３つの花序が同時に伸びた例もあり、2020年5月にはシカゴ植物園でも同様の現象が記録されています。インドネシア国内でも、ボゴール植物園やチボダス植物園などで栽培・開花が確認されており、日本国内でもいくつかの植物園で栽培されており、開花の際は大きな話題となります。

自家受粉の可能性

かつては自家受粉は不可能であると考えられていましたが、1992年には植物学者によって、雄花を粉砕した花粉を手で雌花に授粉させることに成功し、数百個の種子を得て、そこから多数の苗が育成されました。さらに、2011年にはミネソタ州のグスタフ・アドルフス大学でも、自然な状態での自家受粉によって生存可能な種子が生産された記録があります。

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