ショパンの主題による変奏曲 (モンポウ)

フェデリコ・モンポウが作曲した『ショパンの主題による変奏曲』は、ピアノ独奏のために書かれた彼の主要作品の一つです。1938年から1957年という長い期間を経て完成されたこの変奏曲は、モンポウ自身にとって最もピアノの特性を活かした作品とされています。

作曲の始まりは、1938年頃に友人であるチェリスト、ガスパール・カサドからの提案でした。カサドはショパンの『24の前奏曲』第7番を主題に、チェロとピアノのための変奏曲を共作することを提案しました。この提案に触発されたモンポウは、この主題を用いて初期の変奏曲（第1、第2、第3、第5変奏）を作曲しましたが、共同での完成は実現せず、作品は長い間放置されることになります。転機が訪れたのは1957年。ロンドンのロイヤル・バレエ団から、既に作曲されていた変奏を利用したバレエ作品の依頼を受けたことが、再びこの主題に取り組むきっかけとなりました。最終的に完成したのはピアノ独奏のための作品でしたが、モンポウは将来的にバレエへ編曲される可能性を考慮しながら作曲を進めたと述べています。

本作は、主題とそれに続く12の変奏、そしてエピローグから構成されています。変奏の主題として用いられているのは、ショパンの愛らしい小品である『24の前奏曲』第7番（Andantino）です。この簡潔な主題が、モンポウ独自の和声やリズムによって様々に姿を変えながら展開されていきます。

各変奏は異なる性格を持ち、主題へのアプローチも多様です。

• - 第1変奏 Tranquillo e molto amabile: 主題は比較的そのままの形で現れますが、和声には穏やかな変化が加えられています。
• - 第2変奏 Gracioso: 主題はかなり変形され、軽快で優雅なタッチで奏されます。
• - 第3変奏 Lento: 左手のための変奏曲で、主題は変形されていますが、その原型をはっきりと聞き取ることができます。
• - 第4変奏 Espressivo: ノスタルジックな雰囲気を持ち、主題は大きく変形されて元の形がほとんど聞こえません。
• - 第5変奏 Tempo di mazurka: マズルカのリズムが特徴で、主題はあまり変形されずに5回繰り返されます。
• - 第6変奏 Recitativo. Lento: 主題からはかなり自由に離れ、レチタティーヴォ風の語り口。モンポウの前奏曲や『歌と踊り』を思わせる独特の和声が使われ、メランコリックな雰囲気を醸し出します。
• - 第7変奏 Allegro leggiero: 速い3拍子で、主題は軽やかに、比較的そのままの形で再現されます。
• - 第8変奏 Andante dolce e espressivo: やわらかく表情豊かなアンダンテ。主題の特徴的な進行が断片的に現れるものの、大部分は自由に展開されます。
• - 第9変奏 Valse: ワルツのリズム。主題が比較的そのまま演奏される部分と、より自由に装飾・変形される部分が交互に現れます。
• - 第10変奏 Évocation: ABA'の三部形式。「A」の部分はメランコリックな雰囲気で、モンポウの『歌と踊り』第10番の歌の部分に似ています。「B」の部分では、ショパンの『幻想即興曲』の中間部からの引用が聞かれ、最後に「A」が短く回帰します。
• - 第11変奏 Lento dolce e legato: モンポウの『風景』第2曲「湖」の冒頭を思わせる静けさから始まります。徐々に高揚を見せますが、急に勢いを失い、そのまま次の変奏へと続きます。
• - 第12変奏 Galop e epilogue: ギャロップ風の速い楽章。トッカータのような細かいパッセージで幕を開け、次第に華やかさと激しさを増します。一度華やかに終止したかのように聞こえますが、すぐに短いエピローグが続きます。エピローグでは、モンポウに特徴的な和声に彩られながら、主題が再び、今度はゆっくりと静かに回想され、全曲を閉じます。

全曲の演奏時間はおよそ25分です。楽譜はサラベール社から出版されています。

この作品は、モンポウ自身による歴史的な録音に加え、ホルディ・マソによる全集録音や熊本マリによる録音など、複数の演奏家によって録音されています。

また、1990年に公開された映画『櫻の園』では、本作が効果的に使用され、作品の存在が広く知られるきっかけの一つとなりました。

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