シルビオ・ゲゼル

シルビオ・ゲゼル：自由貨幣を提唱した思想家

シルビオ・ゲゼル（Silvio Gesell, 1862年3月17日 - 1930年3月11日）は、ドイツ出身の実業家であり、経済思想家として知られています。彼の提唱した「自由貨幣」の概念は、後の経済学や社会思想に大きな影響を与えました。

生涯

ゲゼルは、現在のベルギー領であるザンクト・フィート（当時はドイツ領）で生まれました。若い頃から商業に関心を持ち、24歳でアルゼンチンのブエノスアイレスに移住し、兄の店の支店を開設します。事業は成功を収めましたが、アルゼンチン経済がインフレとデフレを繰り返す状況を目の当たりにし、金融問題への関心を深めていきました。

1900年にヨーロッパへ帰国したゲゼルは、晴耕雨読の生活を送りながら、経済に関する研究に没頭します。その成果として、主著『自然的経済秩序』を著しました。この著書で彼は、既存の貨幣制度に対する批判を展開し、自由貨幣の必要性を訴えました。

1918年からのバイエルン革命の際、成立したバイエルン・レーテ共和国において、エルンスト・トラー政権下で金融担当大臣に就任しますが、その政権は短期間で崩壊。ゲゼル自身も国家反逆罪に問われ拘留されるという不遇を経験しました。その後、オラニエンブルクで肺炎により死去しています。

彼の死後、息子のカルロスによってアルゼンチンのブエノスアイレス州に開拓された保養地ビジャ・ヘセルには、シルビオ・ゲゼルの記念碑が建てられています。

思想：自由貨幣と自然的経済秩序

ゲゼルの思想の中心は、主著である『自然的経済秩序』にまとめられています。彼は、当時の貨幣制度が、金利によって富が一部の人々に集中する構造になっていると批判しました。

ゲゼルは、あらゆるものが時間とともに価値を減じるのに対し、貨幣だけが価値を維持し続けることが問題だと指摘しました。この問題を解決するために、彼は「自由貨幣」という概念を提唱しました。具体的には、「スタンプ貨幣」と呼ばれる仕組みを提案しました。これは、一定期間ごとに紙幣にスタンプを貼ることを使用条件とすることで、貨幣の滞留を防ぎ、流通を促進させることを目的としています。

スタンプ貨幣の導入によって、貸出金利が低下し、経済全体の活性化につながるとゲゼルは考えました。また、彼は自由土地の思想に基づき、女性が経済的に自立し、安心して子育てに専念できる社会を実現するための母親年金の必要性も訴えました。

影響

ゲゼルの思想は、地域通貨に関心を持つ人々によって注目されています。しかし、ゲゼル自身は、国家が管理しない通貨には反対し、国家が責任を持って管理し、インフレやデフレのない安定した通貨制度を理想としていました。

経済学者のケインズは、著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』においてゲゼルの思想を考察し、「将来の人々はマルクスの精神よりもゲゼルの精神からより多くのものを学ぶであろう」と評価しました。

また、作家のミヒャエル・エンデは、ゲゼルの思想から影響を受けたと公言しており、代表作『モモ』は、ゲゼルの思想から着想を得て執筆されたと言われています。

関連情報

自然的経済秩序（日本語訳）
ゲゼル研究会: ゲゼルの思想の研究と普及を図る日本の団体

ゲゼルの思想は、現代の経済システムにおける課題を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。彼の提唱した自由貨幣の概念は、今もなお、多くの人々に議論のきっかけを提供し続けています。

もう一度検索