バイエルン・レーテ共和国

バイエルン・レーテ共和国とは

バイエルン・レーテ共和国は、第一次世界大戦後の1919年、ドイツのバイエルンで社会主義者たちが革命を起こし、一時的に樹立された社会主義政権です。しかし、成立後すぐに軍の討伐を受け、短期間で消滅しました。ミュンヘン・レーテ共和国とも呼ばれ、レーテ（評議会）がソビエトと同義であることから、バイエルン・ソビエト共和国と訳されることもあります。

歴史的背景

第一次世界大戦末期のドイツ革命の流れの中で、1918年11月7日夜、バイエルン王国で革命が発生しました。翌朝、独立社会民主党の指導者クルト・アイスナーが王政廃止と「バイエルン共和国」の建国を宣言し、首相に就任しました。

アイスナーは、独立社民党と多数社民党の支持を受け、バイエルンで独裁的な権力を握ります。ベルリンの中央政府とは異なり、レーテ（労兵評議会）を取り込み、農民評議会を自己の基盤としました。アイスナーは反ベルリン的な姿勢をとり、穏健左派の中央政府を批判しました。これは、保守的なバイエルン住民の支持を受けました。

バイエルンは、プロイセンに対するライバル意識が強く、第一次世界大戦をプロイセンが引き起こした戦争とみなす人もいました。しかし、アイスナーは理想主義者であり、社会主義者とは距離を置いていました。経済政策においても、性急な社会化には反対しました。このような折衷的な態度は、左右両派の反発を招きました。反対派の左翼は、後にドイツ共産党となるスパルタクス団を創設します。

1919年1月の選挙では、右翼のバイエルン人民党が第一党となり、アイスナーの独立社会民主党はわずか3議席にとどまりました。さらに、同年2月21日にはアイスナーが右翼の青年将校によって暗殺されます。しかし、この暗殺は、逆にアイスナーを支えた両社民党の立場を強めました。

レーテ共和国の成立

1919年4月6日から7日にかけて、独立社会民主党のエルンスト・トラーと無政府主義者のグスタフ・ランダウアーが中心となり、バイエルンで革命が発生しました。多数派社民党のヨハネス・ホフマン首相のバイエルン政府はミュンヘンから追われ、バイエルン・レーテ共和国が樹立されました。

ホフマンは北方のバンベルクに政府を置き、バイエルンは二重政府状態になります。ホフマン政府とレーテ共和国の間で戦闘が始まり、バイエルンは内乱状態に陥りました。共産党はこのレーテ共和国に参加せず、民心を掌握できていないと見て、再革命を画策します。

共産党のレーテ共和国

1919年4月13日、ロシア出身の共産党員オイゲン・レヴィーネらの革命により、最初のレーテ共和国は倒され、レヴィーネによって改めてレーテ共和国樹立が宣言されました。この新しいレーテは、ドイツの労働運動にルーツを持つ左翼活動家が中心でした。

レーニンは、ハンガリーに続く世界革命の拠点としてレーテ共和国に大きな期待を寄せました。4月15日には、ミュンヘンのレーテ予備大隊評議員の選挙が行われ、その当選者の一人にアドルフ・ヒトラーがいました。

レヴィーネは政治能力に欠け、4月27日に退陣しました。彼は共産党の指導者として独自の赤軍を結成し、紙幣の廃止や独自の教育制度を実行しようとしましたが、政権崩壊により実現しませんでした。

レーテ共和国の討伐

レーテ共和国誕生の報を受けたドイツ国中央政府は、ヴァイマル共和国軍やドイツ義勇軍を投入して鎮圧を決定しました。5月1日から3日にかけて、政府軍6万人がミュンヘンに攻め込み、町を占領しました。レーテ共和国崩壊寸前に、共産党は人質として捕らえていた人々を虐殺しました。

レーテ共和国は、成立から1ヶ月足らずで幕を閉じました。ホフマン政権はミュンヘンに戻りましたが、占領軍が実質的にバイエルンを軍政下に置きました。レーテ共和国に関わった者だけでなく、一般市民に対する占領軍による報復的な残虐行為が多発しました。その後、レーテ共和国に関わった人々の裁判が多数行われ、レヴィーネは処刑、ヒトラーは懲役刑を受けました。

バイエルンの右傾化

バイエルンはもともと保守的で、共産主義が浸透するような土地柄ではありませんでした。多くのバイエルン人は反ベルリン的な姿勢だけで左翼政権を支持しました。レーテ共和国が倒れた後、バイエルンはすぐに右傾化しました。ミュンヘンに駐屯した軍隊は、反共主義を徹底するための啓蒙活動を盛んに行い、右翼政党が次々と設立されました。

バイエルン人の反プロイセン感情は変わらず、今度は「左翼プロイセンに立ち向かう右翼バイエルン」を志向するようになりました。この時期に、国民社会主義ドイツ労働者党（ナチ党）が設立されます。ヒトラーは党首となり、バイエルンの独立を求める右翼と組み、ベルリン進軍を狙いました。しかし、中央政府の圧力によって、ミュンヘン一揆は失敗しました。

参考資料

林健太郎『ワイマル共和国 ヒトラーを出現させたもの』（中公新書）
阿部良男『ヒトラー全記録 20645日の軌跡』
* 高田博行『ヒトラー演説 熱狂の真実』中央公論社〈中公新書〉

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