シンクロナイズドスケーティング

シンクロナイズド・スケーティング

シンクロナイズド・スケーティングは、フィギュアスケートの一分野として、氷上で大人数の選手たちが一体となって演技を構成する競技です。男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンスといった既存の種目に次ぐ新たな競技として生まれ、現在では1チーム16名で競われます。この競技は現在も発展途上にあり、将来的な冬季オリンピック種目への採用を目指して、国際的な普及とレベル向上に力が入れられています。

歴史

この競技の起源は、1950年代のアメリカ合衆国にさかのぼります。ホッケーの試合のインターバルに披露されていた、マーチングバンドのような団体演技が始まりとされています。特にボストン周辺でチームが増え、ミシガン州アナーバーのリチャード・ポーターが1954年に結成したチームが、初期の団体演技（当時は「プレシジョン」と呼ばれていました）の草分けとされています。

1976年には世界初のプレシジョン競技会がアナーバーで開催され、1984年には38チームが参加する第1回全米選手権が行われるなど、競技としての形が整えられていきました。

1988年、国際スケート連盟（ISU）はこの競技を正式種目として承認し、技術委員会やコーチ委員会がその発展に大きく貢献しました。この時期には、スウェーデン、フィンランド、アメリカ、カナダといった現在の強豪国でチームが結成され、競技を牽引する存在となります。また、ISUからジャッジやコーチ向けの手引き書が頻繁に発行されるなど、ルールの整備も進められました。

世界選手権の開催を目指し、1996年からは「ワールド・チャレンジ・カップ」という世界大会が開催されるようになります。これは2000年に第1回世界シンクロナイズドスケーティング選手権がアメリカのミネアポリスで開催されるまで4回行われ、現在はジュニアの世界選手権として同じ名称が使われています。

1999年には正式名称が「プレシジョン」から現在の「シンクロナイズド・スケーティング」に変更されました。2000年から2004年頃は、くるくると変化する隊形の美しさが重視され、フリー・スケーティングの規定が比較的緩やかで自由な演技構成が可能だったことから「黄金期」とも呼ばれています。この間、選手の人数は20名構成が中心でした。

2005年には新採点システムが導入されました。これにより、要素の難易度（Base Value）と実施の質（GOE）がより明確に点数に反映されるようになり、多くのチームが似たようなプログラム構成を採用する傾向が見られるようになりました。また、フリースケーティングへの制約も強まり、ショートプログラムとの違いが分かりにくくなるという側面も生じました。

競技概要

ISU規定により、世界大会は主にシニアとジュニアの2つのカテゴリーで行われます。シニアの世界選手権には試合直前の7月時点で14歳以上の選手が、ジュニアのワールド・チャレンジ・カップには12歳以上19歳未満の選手が参加します。

チームは世界大会では通常、16名の正選手と4名の補欠を合わせた合計20名で構成されます（演技するのは16名）。男女比に規定はありませんが、慣例としてキャプテンが置かれます。サッカーや野球のようなポジション分けはありません。

演技はショートプログラム（SP）とフリースケーティング（FS）の2種類があり、合計点で順位が決定します。

ショートプログラム（SP）: 2分50秒以内で、規定された8つの要素をチームが選択した音楽に合わせて実施します。シングル的な要素と、隊形を組んで行うシンクロ的な要素がバランス良く盛り込まれます。
フリースケーティング（FS）: 4分30秒（±10秒）で、チームが自由に選んだ音楽に合わせて演技します。定められた12個の要素をバランス良く構成し、SPよりもリフトやジャンプなど幅広い表現が可能です。

シンクロ用語解説

シンクロ・スケートの演技は、様々な「要素」とそれらを繋ぐ「トランジション」で構成されます。

要素: 隊形や技によって分類され、初期からの「シンクロ5大要素」（サークル、ブロック、ライン、ホイール、インターセクション）と、比較的新しい「シングル的要素」（スピン、ノー・ホールド・ステップ・シークエンス、ムーブス・イン・ザ・フィールド、ムーブメント・イン・アイソレーション）があります。これらは全員で一体となって、あるいは小グループに分かれて行われ、それぞれの規定を満たす必要があります。
トランジション: 要素と要素をつなぐ隊形変化や移動を指します。演技構成の創造性や選手の理解力が問われる重要な部分であり、隊形変化のスピードやスムーズさ、見た目の美しさなどが評価の対象となります。
* ホールド: 選手同士が腕などで繋がる方法で、ショルダー、エルボ、ハンド（リスト）、ノー・ホールド（繋がない）が基本です。演技中に全員が同じホールドを維持することや、ホールドの変化によって隊形の大きさを変えることなどが求められます。様々なバリエーションが存在し、チーム独自の工夫も見られます。

採点システム

採点の大枠は他のフィギュアスケート種目と同様で、SPとFSの合計点で最終順位が決まります。各演技の得点は、要素の基礎点（Base Value）と実施の質（GOE）による「Total Element Score」と、演技全体の質を評価する「Total Program Component Score」から減点を引いて算出されます。

採点には、レフェリー、ジャッジ（最大12名）、テクニカル・コントローラ（TC）、テクニカル・スペシャリスト（TS）などの役員が関わります。TSとTCは演技中の要素の内容を判断し基礎点を確定させ、ジャッジは各要素の出来栄えを7段階（±3）で評価（GOE）します。また、ジャッジはスケーティング技術、トランジション、パフォーマンス、振付、表現といった芸術・構成面も評価（PCS）します。

競技終了後には「プロトコル」と呼ばれる詳細な採点結果が公開され、誰でも閲覧できるようになっています。このシステムは、客観的な評価基準に基づき、なぜその点数が与えられたのかを分かりやすく示すことを目指しており、競技者の多方面にわたる技術能力が評価される傾向にあります。

日本における歴史

日本国内でもシンクロナイズド・スケーティングは発展を遂げています。東京女子体育大学フィギュア・スケート部（現在の東京女子体育大学クラブの母体）は、1985年にアメリカの雑誌記事に触発され、国内でいち早くシンクロチームを結成しました。1987年には早くも国際大会に出場し、その後のワールド・チャレンジ・カップなどにも積極的に参加しました。

その他にも、神宮外苑スケートリンクを拠点とする「神宮IceMessengers」や、関西地域で活動する「関西シンクロLOVERS」などが全日本選手権などで活躍しています。特に神宮IceMessengersは2006年の全日本選手権で東京女子体育大学クラブを破って優勝し、世界選手権に出場した経験があります。また、スウェーデンでの経験を持つ選手が設立に関わった「日本シンクロナイズドスケーティングクラブ」（Team GRACE）も活動していました（後に神宮チームと合併）。これらのチームが日本のシンクロナイズド・スケーティングを牽引しています。

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