シーハン症候群

シーハン症候群：出産後の危険な合併症

シーハン症候群とは、出産に伴う大量出血によって下垂体の機能が低下する、稀な内分泌疾患です。別名、分娩後下垂体機能低下症またはSimmond's diseaseとも呼ばれます。この病気は、分娩時の激しい出血によって下垂体前葉が酸素不足に陥り、細胞が壊死してしまうことが原因です。

病態

下垂体は、脳の底部に位置する小さな器官ですが、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン（卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモン）、プロラクチンなど、様々な重要なホルモンを分泌しています。シーハン症候群では、これらのホルモンの分泌量が減少または完全に消失するため、全身に多様な症状が現れます。

大量出血による下垂体前葉の虚血性壊死は、必ずしも即座に症状を引き起こすわけではありません。多くの場合、発症までに数年以上の潜伏期間があります。そのため、初期症状に気づきにくく、診断が遅れるケースも少なくありません。

症状

シーハン症候群の症状は、低下したホルモンの種類や程度によって大きく異なります。代表的な症状としては以下のものが挙げられます。

乳汁分泌不全（無乳症）： プロラクチンの分泌低下により、母乳が出にくい、または全く出ない状態になります。
疲労感、倦怠感： 様々なホルモンの不足によって、慢性的な疲労感や倦怠感が生じます。
性機能障害： 卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌低下により、月経不順、不妊症、性欲減退などが起こります。
甲状腺機能低下症： 甲状腺刺激ホルモンの分泌低下により、甲状腺の機能が低下し、体重増加、便秘、寒がり、むくみなどの症状が現れます。
副腎機能不全： 副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下により、副腎の機能が低下し、低血圧、脱水症状、食欲不振、体重減少などが起こります。
低血糖： 血糖値の調節に異常をきたす場合があります。

これらの症状は、単独で現れることもあれば、複数同時に現れることもあります。症状の程度も個人差が大きく、軽症から重症まで様々です。

診断

シーハン症候群の診断は、血液検査によるホルモン測定が中心となります。具体的には、血中ホルモン濃度を測定することで、どのホルモンの分泌が低下しているかを特定します。また、MRI検査などによって、下垂体の形態異常を調べ、診断の確定に役立てます。近年は検査機器や技術の進歩により、無症状の段階でも診断できるようになっています。

治療

シーハン症候群の治療は、主にホルモン補充療法です。不足しているホルモンを薬剤として補充することで、症状の改善を目指します。治療は、一生涯にわたって継続する必要がある場合が多いです。

まとめ

シーハン症候群は、出産時の大量出血という、女性にとって深刻な事態に関連した稀な疾患です。しかし、近年は早期診断、早期治療が可能になってきており、適切な治療を受けることで、症状のコントロール、生活の質の向上を目指せるようになってきています。出産後、強い疲労感や身体の異変を感じた場合は、すぐに医療機関に相談することが重要です。

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