ジェフリー・リーチ

ジェフリー・ニール・リーチ：英語学の巨匠

ジェフリー・ニール・リーチ（1936年1月16日-2014年8月19日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍した、イギリスを代表する英語学者・言語学者です。英文法、コーパス言語学、文体論、語用論、意味論など、幅広い分野で顕著な業績を残し、英語学の発展に多大な貢献をしました。

学歴とキャリア

リーチはイングランドのグロスター市に生まれ、テュークスベリー文法学校を経て、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン（UCL）で英語を専攻、修士号（1959年）と博士号（1968年）を取得しました。UCLでは助講師、講師として勤務し、ランドルフ・クヮークやマイケル・ハリデーといった著名な言語学者らと交流を深めました。その後、ハークネス・フェローとしてマサチューセッツ工科大学（MIT）で研究を行い、1969年にはランカスター大学に移籍、2001年まで英語学教授を務め、2002年には名誉教授となりました。ブリティッシュアカデミーのフェロー、UCLとランカスター大学の名誉フェローにも選出されています。

研究と主要業績

リーチの研究は多岐に渡りますが、特に以下の分野での貢献が顕著です。

英文法

リーチは、クヮーク、グリーンバウム、スヴァルトヴィクらと共同で、『現代英語文法』（A Grammar of Contemporary English, 1972）、『包括英語文法』（A Comprehensive Grammar of the English Language, 1985）といった、英語学における標準的な大規模記述文法の編纂に携わりました。これらの文法書は、英語の文法を網羅的に記述したもので、長年に渡り英語学習者や研究者に利用されてきました。また、ビバー、ヨハンソン、コンラッド、ファイネガンらとの共著『口語と文語のロングマン英語文法』（Longman Grammar of Spoken and Written English, 1999）も、コーパス言語学に基づいた画期的な成果として高く評価されています。

コーパス言語学

リーチは、UCL時代のクヮークによるコーパス構築作業に触発され、ランカスター大学赴任後、イギリス英語の最初の電子コーパスであるLancaster-Oslo-Bergen Corpus（LOB Corpus、1978年）の開発を主導しました。その後も、British National Corpus（BNC）の作成において中心的な役割を担い、コーパス言語学の発展に大きく貢献しました。「ツリーバンク」という用語も、リーチが1980年代に考案したものです。

文体論

リーチは、文学テキストの文体分析にも深く関与し、『英語詩の言語学的ガイド』（A Linguistic Guide to English Poetry, 1969）、ミック・ショートとの共著『フィクションにおける文体』（Style in Fiction, 1981, 第2版2007）といった重要な著作を発表しました。『フィクションにおける文体』は、文体論における影響力の大きさを認められ、PALA25シルバー・ジュビリー賞を受賞しています。リーチの文体論は、「前景」の概念に大きく依拠しており、文学における芸術的効果を、言語規範からの逸脱という視点から分析しています。

意味論

リーチは初期に意味論の研究にも取り組んでおり、博士論文『英語における場所、時間、モダリティの意味論』を出版しました。また、『意味論』（Semantics, 1974, 1981）において、概念的意味、内包的意味、社会的意味、喚情的意味、反映的意味、連語的意味、主題的意味といった7種類の意味を区別して提示し、大きな影響を与えました。

語用論

リーチは、1970～80年代に盛んになった語用論の分野においても重要な貢献を果たしました。主著『語用論の原理』（Principles of Pragmatics, 1983）では、グライスの協調の原理を基盤としながらも、新たに「ポライトネスの原理」を提唱しました。この原理は、気配り、寛大性、是認、謙遜、合意、共感といった複数の原則から構成され、コミュニケーションにおける礼儀正しさのメカニズムを説明しようとするものでした。ただし、このモデルは、原則の数が多すぎる、文脈依存性を軽視しているといった批判も受けています。リーチ自身も、後の論文でこのモデルの修正を試みています。

主要著書

リーチは、30冊以上の著書、120本以上の論文を発表しており、その数は膨大です。主な著作として上記の他、『意味論と語用論の現在』『現代英語文法 コミュニケーション編』『ポライトネスの語用論』などが挙げられます。これらは、日本語にも翻訳され、英語学研究者や学習者にとって重要な文献となっています。

まとめ

ジェフリー・ニール・リーチは、多様な分野にわたる研究と膨大な著作を通じて、英語学の発展に計り知れない貢献をした、20世紀後半から21世紀初頭における英語学界の巨匠の一人と言えるでしょう。彼の業績は、現代の英語学研究に依然として大きな影響を与え続けています。

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