ジェレミ・ベンサム

ジェレミ・ベンサム

ジェレミ・ベンサム（Jeremy Bentham、1748年2月15日 - 1832年6月6日）は、イギリスの哲学者、経済学者、法学者として知られています。彼は功利主義の創始者であり、その思想は19世紀初頭のインドにおけるイギリス東インド会社の行政法にも大きな影響を与えました。

人物と生涯

ベンサムはロンドンのスピタルフィールズに富裕な家族に生まれました。幼少期からその才能を示し、特にラテン語の学習に優れていました。彼はウェストミンスター・スクールを経て、オックスフォード大学のクィーンズカレッジに進学し、その後、リンカーン法曹院で法律を学びました。しかし、彼は法曹界に幻滅し、法律を実践するのではなく、法律についての研究や著述に専念することを決めました。

特に、彼はウィリアム・ブラックストン卿の法学講義に失望し、既存の法律体系に対して批判的な立場を取りました。彼の名は、「ベンサム」と読み、英語では一般的に[ˡbenθəm]と発音されますが、語源に基づいて[ˡbentəm]とも発音されるべきだとする意見もあります。法学者の中では、後者の呼称が好まれることもあります。

大法官を道けることが期待された彼ですが、その後、法律改革と批判的研究に生涯を捧げました。1792年に父が亡くなって以降、経済的に独立し、作家として活動を開始しました。その後約40年間、彼は法や社会改革に関して多くの提案を行いました。特に、パノプティコンと呼ばれる理想的な刑務所設計は彼の代表的なアイデアとして知られています。これは実際には建設されませんでしたが、後の監獄設計に影響を与えました。

また、彼はユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの設立に関連づけられることがありますが、実際には大学設立当時には78歳であり、直接的な関与はありませんでした。それでも、彼の思想的背景がその設立方針に影響を与えたとされています。

功利主義

ベンサムの哲学の中核には「功利主義」があります。彼は「快楽や幸福をもたらす行為が善である」とし、正しい行動は「効用」を最大化するものであると定義しました。「最大多数の最大幸福」という考え方は、社会全体の幸福を最大化すべきだという彼の立場を表しています。彼の思想は、行為がもたらす快楽の量を計算し、その結果に基づいて企業や政策の善悪を判断する「幸福計算」にも繋がります。

ただし、彼の理論には公正さの原理が欠落しているとの批判もありますが、彼自身は社会的相互作用の基本的フレームワークを提供する法律の重要性を理解していました。彼の哲学は、後のジョン・スチュアート・ミルによって拡張されています。

また、ベンサムは同性愛の合法化を提唱し、とくに同性愛が他者に害を及ぼさず、当事者間の快楽をもたらすことを説明しました。彼の思想は、当時の社会や法律への不満を舞台にしたもので、現代にも通じる倫理的な問題を提起しています。

著作と遺産

ベンサムの主な著作には『道徳および立法の諸原理序説』や『統治論断片』などがあります。彼の全作品はロンドン大学のベンサムプロジェクトを通じて編集・公開されており、その影響は今なお続いています。彼の部屋には「自己標本」として保存された遺体があり、これは彼の思想と生涯の業績を象徴するものともされています。彼の思想は現在でも多くの領域で検討され続けており、倫理学や法学の根本に影響を与える存在として広く認識されています。

もう一度検索