パノプティコン

パノプティコン（Panopticon）は、イギリスの哲学者ジェレミ・ベンサムが考案した刑務所施設の構想です。弟サミュエルの示唆を受け設計され、その詳細が『パノプティコン』として1791年に発表されました。pan-は「すべて」、-opticonは「見る」を意味し、施設全体を見渡せる全展望監視システムを指します。

パノプティコンの概要

功利主義者であったベンサムは、社会全体の幸福度を高めるためには、犯罪者や貧困層の生活水準を向上させることが重要だと考えていました。彼の功利主義的な考え方はパノプティコンにも反映されており、運営の効率性と収容者の福祉を両立させることを目指しました。

ベンサムは、収容者を常に監視下に置くことで、彼らに生産的な労働習慣を身につけさせることができると主張しました。パノプティコンは、円形に配置された収容者の個室が、中央の多層式看守塔に面するように設計されています。収容者からは互いの姿や看守の姿が見えないように工夫されている一方、看守は常に全ての収容者を監視できる構造になっています。

パノプティコンの思想と影響

パノプティコンは、民間に運営が委託されることを想定しており、少数の運営者で多数の収容者を監督できる効率的なシステムでした。ベンサムの構想では、収容者には職業選択の自由が与えられ、刑期終了後も社会復帰を支援するために、安全な環境で労働を継続できる仕組みが用意されていました。パノプティコンは、単なる刑務所というだけでなく、犯罪者の更生を目的とした教育システムとしての側面も持っていました。

ベンサムは、当時のイギリスにおける非人道的な刑務所の状況を憂慮し、パノプティコンの建設に尽力しました。自らの遺産で模型を製作し、英国議会に働きかけましたが、彼の生前に実現することはありませんでした。しかし、1816年に開設されたイングランド国立監獄に影響を与えました。

最初のパノプティコン型刑務所はアメリカで建設され、その後、その設計思想は刑務所だけでなく、学校、病院、工場など、様々な施設に応用されることが意図されました。19世紀フランスの監獄建築であるマザス監獄やレンヌ中央監獄にも、パノプティコンの思想が見られます。フランスの哲学者ミシェル・フーコーは、著書『監獄の誕生 監視と処罰』において、パノプティコンを管理・統制された社会システムの比喩として紹介しました。

日本におけるパノプティコン

日本の監獄・刑務所のシステムは、明治時代にフランスを手本として構築されたため、旧金沢監獄（現在の博物館明治村）や旧網走監獄の「五翼放射状平屋舎房」に、パノプティコンの思想を垣間見ることができます。

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