ジェローム・K・ジェローム

ジェローム・K・ジェローム：貧困から生まれたユーモア作家

ジェローム・K・ジェローム (1859-1927) は、イギリスを代表するユーモア作家の一人であり、『ボートの三人男』で広く知られています。貧しい家庭に生まれ、幼少期から苦労を重ねながらも、持ち前のユーモアと才能で文学の世界を切り開いた、波瀾万丈の人生を送りました。

生い立ちと初期の経歴

ジェロームは、スタッフォードシャー州ウォルソールで、信徒伝道者であった父と母との間に生まれました。一家は地方鉱工業への投資失敗により貧困に喘ぎ、ジェロームは幼い頃から経済的な苦労を経験します。彼の自伝『My Life and Times』には、この厳しい生活が鮮やかに描かれています。

13歳で父を、15歳で母を亡くしたジェロームは、学業を断念し、ロンドン・アンド・ノースウェスタン鉄道で働き始めます。線路沿いの石炭回収という過酷な労働に4年間従事した後、姉の影響を受け、俳優の道に進みます。しかし、地方巡業の厳しい現実を目の当たりにし、舞台生活を諦めます。

その後は、教師、梱包業者、弁護士の秘書など様々な職を転々としつつ、ジャーナリストを目指して執筆活動を始めます。多くの作品が不採用に終わる中、1885年に出版されたユーモラスな自伝『On the Stage - and Off』が成功を収め、彼の作家としての道を切り開きました。続く1886年には、ユーモア随筆集『Idle Thoughts of an Idle Fellow』を出版し、文筆家としての地位を確立していきます。

『ボートの三人男』の大成功とその後

1888年、ジェロームはジョージナ・スタンリー・マリスと結婚します。新婚旅行でテムズ川を下った経験が、彼の代表作となる『ボートの三人男』の着想源となりました。友人たちとのテムズ川でのボート旅行を題材に、ユーモラスでありながら、人間味あふれる物語を紡ぎ出しました。

1889年に出版された『ボートの三人男』は、たちまち大ベストセラーとなり、世界中で百万部以上の売り上げを記録しました。この成功により、ジェロームは経済的な安定を得て、専業作家として活動できるようになりました。映画、テレビ、ラジオ、舞台劇、ミュージカルなど、様々なメディアで作品が脚色され、テムズ川観光の促進にも貢献したと言われています。

『ボートの三人男』の成功後も、ジェロームは精力的に執筆活動を続け、戯曲、随筆、小説などを発表しますが、いずれも前作のような大成功を収めることはありませんでした。雑誌『Idler』や『To-Day』の編集者としての経験も積みますが、経済的な困難や訴訟に巻き込まれるなど、苦難の時期もありました。

1898年にはドイツ旅行を題材にした『Three Men on the Bummel』（『ボートの三人男』の続編）を発表しますが、前作ほどの成功は収めませんでした。自伝的作品とされる小説『Paul Kelver』（1902年）や、戯曲『Passing of the Third Floor Back』（1908年）なども発表しますが、これらの作品は商業的には成功を収めることができませんでした。

第一次世界大戦と晩年

第一次世界大戦勃発後、ジェロームは軍隊への志願を試みますが、年齢が理由で拒否されます。代わりに、フランス陸軍の救急車運転手として従軍しました。戦争体験や義娘の死は、彼の精神に大きな打撃を与えたと言われています。1926年に自伝『My Life and Times』を出版し、故郷ウォルソールから「区の自由人」の称号を授与されます。しかし翌1927年、自動車旅行中に脳出血で倒れ、2週間後に亡くなりました。

ジェローム・K・ジェロームは、貧困と苦労の人生を送りましたが、その経験をユーモアと温かい視線で作品に昇華させ、多くの読者に愛される作家となりました。『ボートの三人男』は現在でも読み継がれ、彼のユーモアと人間味は時代を超えて人々に感動を与え続けています。彼の生家は記念館として保存されており、今も多くの人々が訪れています。

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