ジェンダー・フルイド

ジェンダーフルイド：流動する性同一性

ジェンダーフルイドとは、個人の性同一性が時間や状況に応じて変化する状態を指します。生涯を通じて一貫した男性性や女性性を持つ人がいる一方で、ジェンダーフルイドの人は、ある時は男性と感じることも、女性と感じることも、あるいはノンバイナリーやアジェンダーと感じることもあり、その状態は流動的に変化します。性同一性だけでなく、外見や行動などのジェンダー表現も同様に変化する可能性があります。ただし、こうした流動的な変化を経験するすべての人が、自身をジェンダーフルイドと認識するわけではありません。

ジェンダーフルイドは、トランスジェンダーとは異なる概念です。トランスジェンダーは、出生時に割り当てられた性別と異なる性同一性を持つ人のことを指しますが、その性同一性が必ずしも流動的であるとは限りません。ジェンダーフルイドは、性同一性が固定せず、揺れ動く状態にあることを自覚し、その状態を表現する言葉として用いられます。ジェンダー・クエスチョニングとは異なり、性同一性を積極的に探している状態ではなく、流動的な性同一性を自認している点が重要です。ジェンダークィアという用語も存在し、ジェンダーフルイドを含む、性別二元論に当てはまらない多様な性同一性を包括的に指す場合もあります。

歴史と用語の変遷

ノンバイナリーや第三の性別を含むトランスジェンダーの存在は、古代から世界中の様々な文化に認められてきました。しかし、「トランスジェンダー」「ジェンダー」「性同一性」「性役割」といった現代的な用語や概念が明確に現れたのは、1950年代から1960年代頃です。そのため、ジェンダーフルイドを含む様々なジェンダーのアイデンティティの歴史的記述には、解釈の多様性が見られます。

1928年のヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』では、主人公のジェンダーが複数回変化する描写があり、ジェンダーフルイドの概念が予見的に描かれていると言えるかもしれません。

「ジェンダー・フルイド (gender fluidity)」という用語自体は、ジェンダー理論家のケイト・ボーンスタインが1994年の著書『Gender Outlaw: On Men, Women and the Rest of Us』で初めて使用したとされています。その後、1996年の『The Second Coming: A Leatherdyke Reader』でも使用され、徐々に認知度を高めていきました。

近年では、Facebookが2014年にジェンダーの選択肢として「Gender Fluid」を追加し、Dictionary.comが2015年に「genderfluid」の項目を掲載するなど、社会的な認知度も向上しています。

ジェンダーフルイドのシンボル

ジェンダーフルイドのプライドフラッグは、2012年にJJ Pooleによってデザインされました。この旗は、ピンク（女性らしさ）、白（ジェンダーの欠如）、紫（アンドロジニー）、黒（その他すべてのジェンダー）、青（男性らしさ）の5色のストライプで構成され、ジェンダーの多様性を象徴的に表現しています。

関連概念

ジェンダーフルイドを理解するためには、ジェンダーアイデンティティ、ジェンダークエスチョニング、ノンバイナリージェンダー、トランスジェンダーといった関連概念についても理解を深めることが重要です。これらの概念はそれぞれ異なる意味を持ちますが、ジェンダーの多様性を理解する上で相互に関連しています。ジェンダーフルイドは、これらの概念の一部と重なる部分を持ちつつ、独自のアイデンティティとして存在しています。

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