性同一性

ジェンダーアイデンティティ：自分自身のジェンダーを深く感じるアイデンティティ

ジェンダーアイデンティティとは、個人が自分自身を男性、女性、あるいはそれ以外のジェンダーとして深く感じ、経験するアイデンティティのことです。これは、生まれつき持った身体的特徴（染色体、ホルモン、生殖器官など）に基づく性別（sex）とは異なる概念であり、時に「性自認」や「ジェンダーアイデンティティ」とも呼ばれます。

シスジェンダーとトランスジェンダー

出生時に割り当てられた性別と、自分が深く感じるジェンダーが一致する場合はシスジェンダーと呼ばれます。一方、一致しない場合はトランスジェンダーと呼ばれ、「トランス」と略されることもあります。「トランスセクシュアル」という用語も存在しますが、近年では「トランスジェンダー」の使用が一般的です。

ノンバイナリー（X[[ジェンダー]]）

トランスジェンダー以外にも、ジェンダーフルイド、ジェンダークィア、ポリジェンダー、バイジェンダーなど、男女の二元論に当てはまらないジェンダーアイデンティティを持つノンバイナリー（X[[ジェンダー]]）の人々がいます。また、いかなるジェンダーもアイデンティティとしていない場合はAジェンダー（エイジェンダー/アジェンダー）と呼ばれます。

インターセックスとジェンダーアイデンティティ

インターセックス（性分化疾患）の人々は、典型的な男性または女性の性的特徴とは異なる状態で生まれます。彼らのジェンダーアイデンティティも多様であり、男性、女性、ノンバイナリーなど様々です。研究によると、インターセックスの人々の多くが性別違和を経験しており、その中には「女性や男性」以外の性同一性を自認する人もいます。

ジェンダー・バリアント

世界には、古くから主流のジェンダー規範に当てはまらない人々が存在し、独自の文化や伝統を持っています。アメリカ先住民のトゥー・スピリット、ポリネシアのファアファフィネ、南アジアのヒジュラーなどがその例です。こうした人々を総称してジェンダー・バリアントと呼ぶ場合があります。

ジェンダーアイデンティティとその他の概念

ジェンダーアイデンティティは、単なる自己主張ではなく、ある程度の一貫性や継続性を持つものです。そのため、自由に好きな性別を選択できるわけではありません。また、ジェンダーアイデンティティは「心の性別」と呼ばれることもありますが、これは自分がどの性別集団に属しているかについての帰属意識に関連するものであり、必ずしも正確な表現ではありません。

ジェンダーアイデンティティは性的指向とは異なる概念です。ジェンダーアイデンティティが何であれ、どんな性別の人に惹かれるかは個人の自由です。ゲイの男性が「女性になりたい」と感じるわけではないように、ジェンダーアイデンティティと性的指向は独立したものです。

ジェンダー表現（性表現）は、服装や髪形など、外面的なジェンダーの表現方法です。ジェンダーアイデンティティとジェンダー表現が一致する人もいれば、そうでない人もいます。ボーイッシュな女性が必ずしも男性のジェンダーアイデンティティを持つとは限りません。ジェンダー・ノンコンフォーミングという用語は、社会における男女二元論的な規範とは異なる形で自分を表現する人々を指します。

ジェンダーアイデンティティの日本語表記

日本語では、「gender identity」の訳語として「性同一性」、「性自認」、「ジェンダーアイデンティティ」が用いられます。これらはほぼ同義ですが、「性自認」は「自称」に過ぎない、あるいは「性同一性」は医学用語であるといった誤解があります。2023年成立のLGBT理解増進法の議論でも、これらの用語の使い分けが問題となりました。最終的に同法では「ジェンダーアイデンティティ」が採用されましたが、国会審議においては、これらの用語に意味上の違いはないことが再確認されました。

ジェンダーアイデンティティの歴史

「gender identity」という用語は、1964年にロバート・ストーラーによって造語されました。その後、ジョン・マネーによって普及し、ジェンダーアイデンティティ・クリニックが設立されるなど、研究が進みました。初期の研究には倫理的な問題点も指摘されています。

近年では、国際連合人権理事会が「人権と性的指向・性同一性」に関する決議を採択するなど、ジェンダーアイデンティティは人権として認識されるようになってきました。

ジェンダーアイデンティティのメカニズム

ジェンダーアイデンティティは、2～3歳や3～4歳頃から認識され始めるといわれています。子どもが典型的な性役割と異なる行動を示す場合、その子のジェンダーアイデンティティが出生時に割り当てられた性別と一致していない可能性があります。しかし、一度か二度そのような行動を見せただけで、すぐにジェンダーアイデンティティを断定することはできません。不安な場合は、専門家に相談することが大切です。ただし、思春期前の子供に性別移行の医療処置が施されることはありません。

ジェンダーアイデンティティが出生時に割り当てられた性別と一致しないことによって生じる心理的苦痛は、性別違和（gender dysphoria）と呼ばれます。

ジェンダーアイデンティティの決定要因

ジェンダーアイデンティティがどのように決定されるかについては、まだ完全には解明されていません。遺伝的要因、出生前ホルモンレベルなどの生物学的要因、思春期や成人期の経験など、様々な要因が複合的に影響していると考えられています。しかし、ジェンダーアイデンティティの原因に関する研究は、トランスジェンダーの人々をシスジェンダーにするための「治療」を求める誤った方向の要求を増大させるだけではないかという批判もあります。性同一性を強制的に変えようとする行為は「転向療法（コンバージョン・セラピー）」と呼ばれ、多くの機関がその危険性を指摘し、反対しています。

ジェンダーアイデンティティの医学的扱い

アメリカ[[精神医学会]]のDSMでは、ジェンダーアイデンティティが出生時に割り当てられた性別と一致しないことによって生じる性別違和は精神障害と診断されることがあります。しかし、ジェンダーアイデンティティが異なること自体が精神障害であるわけではありません。世界保健機関（WHO）のICD-11では、「性別不合」として定義され、精神疾患としては扱われなくなりました。

ジェンダー・アファーミング・ケア（トランスジェンダー・ヘルスケア）は、性別違和を感じている人々へのケアを提供します。ホルモン補充療法や性別適合手術などの医学的処置も含みます。性別移行とは、人が自分の身体や生活スタイルを自分のジェンダーアイデンティティに近づけていくプロセスです。

ジェンダーアイデンティティに対する差別

ジェンダーアイデンティティに対する差別や偏見は社会に蔓延しており、特にマイノリティなジェンダーアイデンティティを持つ人々は深刻な不平等を経験しています。ミスジェンダリング（望む代名詞を使わないこと、使わなくなった古い名前（デッドネーミング）を使うことなど）、ジェンダーアイデンティティの否定、LGBTに関する学校教育への反対など、様々な差別が問題となっています。

ジェンダーアイデンティティに関する法的対応

ジェンダーアイデンティティは個人のアイデンティティの基礎であり、これを否定することはその人の生活に悪影響を及ぼします。国際連合は、ジェンダーアイデンティティに関わらずすべての人が平等であることを確認し、性同一性の法的認知のプロセスにおける人権保護を訴えています。また、性同一性を含む差別禁止法の採択を各国に求めています。様々な国で、法的性別変更に関する法律が制定・改正されていますが、医療要件の有無や年齢制限など、国によって制度は大きく異なります。

もう一度検索