ジキルとハイド (テレビドラマ)

東宝サスペンスドラマ『ジキルとハイド』：人間の深淵をえぐる、衝撃の二重人格

1973年、フジテレビ系列で放送されたサスペンスドラマ『ジキルとハイド』は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの名作『ジキル博士とハイド氏』を大胆にアレンジした、全13話からなる衝撃的な作品です。主演は、名優・丹波哲郎。医学博士でありながら、自ら開発した薬によって二重人格に苦しむ主人公・慈木留君彦（ジキル）とそのもう一つの顔、凶暴な別人格・背奴（ハイド）を熱演しています。

複雑な人間心理と猟奇的な犯罪

慈木留君彦は、幻覚作用のある薬の改良に没頭するうちに、自ら実験台となり、恐るべき別人格・背奴へと変貌します。背奴は、殺人や強姦を繰り返す残忍な存在であり、元の人格に戻った慈木留は、その時の記憶を失ってしまうという、二重人格の恐ろしさを描いた物語です。

一方、事件の捜査にあたる毛利刑事（露口茂）は、慈木留博士の異常な行動に徐々に気づき始めます。慈木留博士の妻・美奈（松尾嘉代）もまた、夫の異変に苦悩するなど、登場人物たちの葛藤が物語に深みを与えています。

ゴールデンタイム放送を逃した理由

本作は1969年から制作が始まり、当初はゴールデンタイムでの放送を目指していました。1970年には全13話の制作が完了していたにも関わらず、実際には深夜枠での放送となってしまったのです。

その理由として、当時としては異例だった、暴力と性描写の強い内容が、広告代理店から敬遠されたことが挙げられています。特に、五社英雄監督の演出は、暴力と性を際立たせたもので、ホームドラマ全盛期だった当時の視聴者には受け入れがたいものだったと考えられています。

強姦シーンにおいても、直接的な描写を避け、篠山紀信撮影のヌード写真をサブリミナル的に使用するという、当時としては斬新な表現方法が用いられました。これは、アート作品のようなアプローチを試みた結果と言えるでしょう。しかし、この挑戦的な表現も、ゴールデンタイム放送の障壁となったのです。

さらに、『恐怖劇場アンバランス』と同様に、広告代理店からの協賛が得られず、放送枠獲得に苦戦したという共通点も興味深いところです。

50年を経てDVD化

地上波放送後、CSでの再放送はありましたが、長らくソフト化がされていなかった本作は、2023年6月30日に、満を持してDVD化されました。地上波放送から約50年を経て、ようやく多くの視聴者がこの問題作を視聴できるようになったのです。

スタッフ・キャスト

豪華なスタッフ・キャスト陣にも注目です。

原作: ロバート・ルイス・スティーヴンソン『ジキル博士とハイド氏』
企画: 丹波哲郎
監督: 五社英雄、石田勝心、山際永三、今野勉、村木良彦、西村潔、田畑慶吉
脚本: 長坂秀佳（出雲五郎）、大津皓、小川英、山田正弘、池田一朗、東海林直彦
音楽: 泉光二、佐藤勝（演奏：シャープス&フラッツ）
主演: 丹波哲郎（慈木留君彦／背奴）、松尾嘉代（慈木留美奈）、露口茂（毛利刑事）


この作品は、人間の二面性、暴力と性、そして正義と悪といった、普遍的なテーマを深く掘り下げた、未だ色褪せない名作サスペンスドラマと言えるでしょう。未見の方は、ぜひ一度ご覧になってみてください。

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